ごめん、ごめん智希。
そんなこと言わせて。
こんな辛い想いにさせて。
智希はそのまま台所へ向かうと、有志はその背中を見ながら一筋の涙が流れた。
泣いたらダメだ。
あの日のことを認めてはダメだ。
汚い大人だと言われても仕方ない。
でもこのままだと必ずどちらかが壊れてしまう。
二人がずっと同じ場所で暮らせる方法はこれしかないんだと、有志はきつく心に押し付けて目を閉じた。
いつもの二人に戻った。
優しく少し鈍臭い父と、しっかりしているがまだ子供な部分がある息子。
朝起きれば智希が朝食と二人分のお弁当を作り、少しして有志が起きて新聞を読む。
しかし、何かが変わっているのは気のせいではない。
埋めることの出来ない溝が出来始めていたのかもしれない。
「………」
「…どうした智。来た早々机にうなだれて」
教室につくとすぐ鞄を横にかけ溜息をつきながら顔を机に押し付けた。
朝、有志はいつも通り父親だった。
相変わらずスーツ姿は可愛かったけれど。
そんな智希にすぐ気付いた真藤は駆け寄り空いている前の席に座った。
わずかなスペースの智希の机に肘をつきからかいながらも少し、心配そうに智希のつむじに話し掛ける。
「なんかあった?」
「…………」
なんかあったな。
嘘がつけない智希にとって、否定しないことは肯定だ。
察した真藤は肘を机から離し足を組んで椅子の背にもたれた。
開いた窓からの風が気持ち良い。
「女関係?」
「………」
机にうなだれながらも首を横に大きく振る。
「部活?」
「………」
また、首を振る。
「親父さん?」
「………」
ピタッと止まった。
やっぱこいつ可愛いな、そう思い少し笑みがこぼれた真藤だったが、足を組み直し腕を組んだ。