有志はとぼとぼとリビングへ行きエプロンを外しいつもの戸棚へ直す。
ソファへ行き、そのままテレビをつけながら座ろうとした。
しかし。
「…そういえばここ…」
智希に聞こえないぐらいの声で呟くと、座ることが出来ず立ったままテレビをつけた。
そうだ、ここは。
このソファは昨日、有志が乱れた場所なのだ。
「カバー…変えてる…」
ベージュだったカバーはむき出しの茶色い生地になっている。
「やっぱ俺の…所為だよな…」
思わずかぁっと頬を染めて、折角さっき水風呂を浴びて気持ちを切り替えたというのにまた崩れ落ちそうだ。
ソファに座らずもたもたしていると、智希がリビングにやってきた。
「あれ、なにしてんの」
「わっびっくりした」
「座らないの?」
「カバーが…」
自ら地雷を踏んでしまった。
有志が視線をソファに反らすと同時に智希も視線をソファに移し、取りに来た輪ゴムを取りながらじっと見つめる。
なに、言ってんだ俺は。
自分で言っておいて有志は後悔した。
このあともし昨日の出来事を言われたらもう、知らない振りをし続けれる自信が無い。
ゴクリと生唾を飲み智希を見ると、それと同時に智希も有志を見た。
するとフっと笑い、開けたパッケージを輪ゴムで閉じながら有志に背を向けた。
「父さんほんと何も覚えてないんだな」
「えっ」
また、ゴクリと生唾を飲む。
「昨日父さんね、そこでお茶こぼしたんだ」
「…そ、そう」
思わず、半音高い返事。
「昨日べろんべろんに酔っ払って帰ってきて、俺にお茶頼んだのはいいけど口からダラーってこぼしたんだぜ。まじ最悪」
「………」
顔だけを有志に向けクスっと笑うと、向けられた本人は胸が締め付けられるような感覚に陥った。
なんて、辛そうな顔をしているんだ。
智希本人は一生懸命笑顔を作っているつもりだが、有志からすれば辛すぎて今にも泣きそうな顔をしていた。