第2章
02
「…智…」


有志は部屋の壁にもたれ目を薄っすら開けていた。
目は真っ赤に腫れ頬には涙のあとがある。

くしゃくしゃになった髪の毛を直す様子もなくただ、目を開け一点を見ていた。

「…智………っ」

また、涙が溢れた。




「……ほっ」

いつもの場所、近所のバスケットコートで汗を流している。
一心不乱とはことのことだろう。

日曜の朝なので子供達が中で遊ぼうと思ったが、智希の威嚇にも感じるプレイに恐怖を覚え入ることが出来なかった。

黙々と、一人で走ってはシュートを決める。
1時間は経っただろうか。
わざと疲れるような荒いプレー、攻撃的なシュート。

いつもよりシュート成功率は悪い。

「はぁ…はぁ…はぁ」

無心になって何かしようと思っているのに、有志のことが頭から離れない。
一度手に入ったと思った宝物が幻だったなんて。

笑えない。



「はぁ…」



汗を大量に流しながらコートの上に大の字になって寝転んだ。
今日は天気が良い。だからといって蒸し暑くはなく涼しい風が通り抜けるから快適だ。

でも心は濁っているけれど。


携帯も財布も持ってこずiPodだけをポケットに入れ出てきた。
イヤフォンから流れる洋楽がシャカシャカと音を立てる。

大きく溜息をつきながら空を見上げると形の良い雲が見えた。


家に帰りたくない。


そんなこと、一度も思ったことが無いがこの日は流石に家出したいと思った。


最後に立ち上がり軽くランニングをしてシュートを決めると、入ると思われたボールはゴールの縁でグルグルと回り、結局中に入らず落ちた。




「ほんと、最悪」



心の不調は体に出てくる。
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