時間はどのぐらい過ぎただろうか。
智希は部屋にある時計を力無く見上げる。
11時か…
2時間近く何もせずボーっとしていることに気づき驚いた。
息は、かろうじてしていたらしい。
智希は立ち上がり部屋を出ると、壁に手をつきながら下へ降りた。
有志はもちろん、いない。
リビングへ行くと2時間前、有志のために用意した朝食が並べられていた。
味噌汁は湯気をなくし味噌と水が分離している。
智希は折角作った朝食を全て台所へ持っていき流しに捨てる。
流れる味噌汁を微かに息をしながら見つめた。
作った玉子焼きも全てゴミ箱へ捨て再びリビングへ戻ると、音をたてながら倒れるように椅子に座り弱々しくテーブルの上に肘を預けた。
はぁ、と大きく溜息をついて有志の部屋、和室に目をやる。
物音一つ聞こえない。
疲れきって寝ているのだろう。
起きたら昨日のことを思い出してくれるだろうか。
しかし思い出したところで父親である有志が受け止めることができるだろうか。
自殺なんかしないだろうか。
「………」
思わずゾっとして席を立ち上がり音を立てず和室の前へ行く。
「………」
でも、その襖を開ける勇気はない。
智希は再び2階へ上がり中へ入った。
何かしようか。何かしてないと狂いそうだ。
トレーナー、そしてラフなハーフパンツに履き替えバスケットボールを抱えて降りた。
シンと静まり返る和室の前に立つ。
「と、父さん…起きてる?」
返事は無い。
物音もない。
「バスケの練習してくる。家開ける…から」
いつもなら、必ず返事があるのに。
「行って…きます」
名残惜しく襖に額を当てて目を閉じると、ぐっと歯を噛み締めその場をあとにした。
有志の返事が無いだけで、こんなに苦しいなんて。
バタン。
玄関の扉が閉まる音が聞こえた。
智希が外出したようだ。