「ってかこれ…うわっ…二日酔い?ってやつかな?凄い頭ガンガンするー」
「…………クスリ、持ってこようか?」
弱々しい智希は、少し目が潤んでいた。
クスリを持ってこようと立ち上がったのだろう、足取り悪く部屋を出ようとする智希に有志は呼び止めた。
「あ、いいよ智希。下行ってちゃんと自分の部屋で寝るー」
「…でもクスリ…」
「大丈夫だって」
有志も立ち上がる。フラフラだ。
それは有志が言う二日酔いのせいなのか、昨日の行為のせいなのか。
「お前のほうが子供なんだから、そこまで見てくれなくていいよ」
「でもっ」
智希を抜かし先にドアを掴むと、有志は振り返りいつもの 父親 の顔で微笑んだ。
「うん、でもそんな頼りがいのある息子に恵まれて、お父さんは嬉しいよ」
「っ…………」
息が、できない。
「じゃあ、折角の日曜だしもうちょっと寝るわー」
「っ………う、うん。起きたらご飯、チンして食べて」
「ありがと」
精一杯の言葉を振り絞ったというのに、有志の笑顔は普通すぎて泣き叫んでしまいそうだった。
バタンと、静かに閉まる扉が全ての終わりを告げる音に聞こえた。
「…………」
智希の部屋を出た有志はトントンと足音をたてて階段を降りていくと、そのまま台所から伝わってくるおいしい匂いを感じちらりとテーブルを見る。
智希が用意した料理を横目で見ながら1階にある和室の自分の部屋に入った。
パタン。
襖の閉まる音がする。
「………」
バタン。
有志が膝をつく音がする。
「っ…………」
ガタン。
有志が崩れ落ちる音がした。
「っ………っ………めっ」
必死に声を押し殺し懺悔するように額を畳に押し付けると、低く誰にも聞こえない声でそれは発せられた。
「っごめっ…智希ごめんっ…ごめんっ…ごめん智希っ…ごめんっ………智希っ智希智希っ…ごめっ」
次第に畳に雫が落ちシミを作っていく。
「ごめんっごめんっ…………っ………ごっ…………っく………ごめん」
誰かが、この声を聞いてくれれば懺悔になるのだろうか。
「智希ごめっ…ん……」
搾り出すその声はもう、枯れ始めていた。
「…………あーあ、父さん、覚えてなかったんだって…」
智希は誰もいない部屋でベッドにもたれ、独り言を言いながら天井を見ている。
泣いては、いない。
「あーあ」
その、投げやりな言葉と表情からは、先ほど鼻歌を歌うまで幸せの絶頂だった智希と結びつかない。
「………あー………あ…」
目を、閉じた。
「神様も…ひどいな………」
第一部・了