第1章
79

「…今何時…」

「9時だよ。早く起きて。もうご飯出来てるから」

「…んー……ん?」

「?」

確実に有志の声のトーンが変わった。
半音高くまるで驚いているようだ。

「どうしたの?」



「…なんで俺、ここで寝てんの」




「えっ」

智希の部屋の布団を握りながら真剣にそう言うと、頭をポリポリかきながら起き上がった。

「…あれ…ここ…智の部屋?」

「……うん」

まさか。
動悸が激しくなる。

「なんで俺自分の部屋で寝てないの?昨日なんかあった?」

「…………」

まさか、まさか。
と、脳内で昨日の出来事がフラッシュバックされている。


まさか。


「昨日のこと…覚えてない?」


「…え…俺…なんか…した?」

「…………」

震えているだろうか。
それさえもわからない。

「うわーなに…こんなん初めてだー」

起き上がった有志はすぐにまたベッドに倒れた。
頭を抱えゴロンゴロンと悶えている。

「…どこまで…覚えてる?」

「……気分良くなってー…。あ、タクシーに乗せられたのは覚えてる」

はっとして再びベッドから起き上がると、あぐらをかきながらうーんと唸っている。

智希は、今にも泣きそうだ。

「そっからは?」

「………わかんない」

「家に帰ってきてからは?」

「……………わかんない」

「……………」

有志の腕を掴みきつく揺らすと、辛そうにわからないと答えるその顔に自分までもさらに辛くなる。

まさか。

「え、でも俺着替えてる…。凄い記憶ないけどちゃんと着替えたんだー」

「………………」

「うわー記憶飛んだのとか初めてー」

「…………なんで…そんな自棄酒したのかも…覚えてない?」

「…………理由、あんの?」

逆に、聞かないでよ。

胸が痛すぎて破裂しそうだ。
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