「ちょ、待って。なに、なんで?なに?ほんとわかんねぇ」
「…っく…ぅ……」
腕を組み正座したままで嗚咽を漏らすその姿は本当に変だ。
智希はどうしたらいいかわからず、とりあえず自分もソファに座り今度は有志を見下ろす状態になった。今はつむじしか見えないのだが。
「どうしたんだよ、父さん。今日なにがあったの」
「今日、食事会にいた課長に」
「うん」
「智希ももう今年17歳だって言ったら」
「うん」
「彼女とか出来たんじゃないのって言われて」
「うん」
「なんか」
「うん」
「凄く」
心臓が、バクバク言っている。
なんだ。なにが起こるんだ。
「凄く、なに」
「…凄く、悲しくなって」
ダメだその先はなんだか危険な感じがする。
聞いてはいけない。
「なんで、悲しくなったの」
「…………」
まだ下を向いたままで、篭っているため聞き取りにくい。
組んでいた腕は膝のうえに場所移動していて、ぎゅっときつく握っているからだろうか、若干有志の手が白くなっている。
「なんで、なの」
「俺、智希の彼女に嫉妬したんだ」
「っ………」
だめだ。
だめだだめだだめだ。
有志の肩に手を伸ばそうとしていた自分の右手を必死に押さえ歯を食いしばると、眩暈がして倒れそうになった。
なんだ、父さん、今なんて言った。
「はっ、ははっ…なに言ってんだよ。父親のくせに俺の彼女に嫉妬した…とか…おかしいんじゃない……の」
精一杯の、言葉。
突き放そう。このままではやばい。
なにかあってからでは遅いんだ。
「智、俺おかしいのかな」
「そだね、ちょっと過保護すぎるんじゃない」
わざと明るい声を出して和ませようとしているのに、有志はさらに罪な言葉を吐いてしまう。