しかし、それが出来ない理由があった。
有志はどんなにベロンベロンに酔っていても次の日覚えているのだ。
そして次の日半泣きになりながら迷惑をかけた人全員に謝って行く。
「よいしょ、っと」
「ふあぁ」
まるで子供だ。
ソファに寝かせるとすぐ大の字になりケラケラと笑っている。
なにが楽しいのだろうか。全くわからない。
「はい、水」
「ん」
台所で水を汲み持っていくと、ゆっくり起き上がり渡された水を飲んだ。
気分が悪そうではない。
有志は酒に対して特にひどく弱いというわけではなかった。
酔っ払いはしても吐き気を訴えたり、次の日二日酔いになったりはしない。
ただ、若干幼稚化するのだ。
水を飲み終えるとまた足を大きく広げながらソファに寝転び、楽しそうに鼻歌を歌っている。
そんな有志を見ながら水の入っていたコップを取ると、台所へ持っていく。
突然有志に呼ばれた。
「ともー」
「なに」
コップを流し台に置きすぐリビングへ向かい声をかけると、有志はソファの上に正座で座っていた。
「ちょっとこっち、座れ」
「うん?」
なんだこれ、新しいパターンだな。
顔はまだ若干赤いが顔は険しくなっていて、さっきまで鼻歌を歌っていた有志はどこへいってしまったのだろうか。
言われたとおり床に座り有志を見上げると、腕を組み眉間に皺が寄っていた。
「お前、彼女はいるのか」
「は?」
正直、意味がわからない。
「彼女はいるのかと聞いている」
「今はいないよ」
「昔はいたのか」
「いたよ」
「その子のこと好きだったのか」
「ねぇ、なにが言いたいの」
質問の趣旨がわからず顔を覗き込むと、思わずびっくりして腰が引いてしまった。
有志が、泣いている。