「ん?」
小走りでそこへ向かうと、ちょうど有志が帰ってきたところのようだ。
でも、何か様子がおかしい。
「………あれ、重里(しげさと)さん?」
「ん?おお、智希くん」
見覚えのある顔だった。
有志の会社の後輩、重里卓哉だ。
その重里はよいしょの掛け声で誰かの腕を肩に回し運ぼうとしている。
………、有志だ。
「父さん?」
「うん、ちょっと酔いつぶれたみたいで」
「智ぉただいまぁ」
自分で立てないのだろう、重里に寄りかかりながら顔を真っ赤にし、タクシーの中から現れた。
智希はよりかかっている重里に少し苛立ちを覚えた。
離れろよ、と心の中で低く唸る。
「ありがとうございます、もうここからは俺が運ぶんで」
「いいよ、リビングまで」
「いえいえ、ここまで送ってもらっただけで凄いありがたいんで、これ以上迷惑かけれません」
「智希君、相変わらず大人だねぇ」
「いえ、そんなことないですよ」
だって、単に有志から早く離れてもらいたいだけだから。
「じゃあ、あとはヨロシク」
「はい、本当にありがとうございました」
「じゃあねぇ」
有志を抱えながら重里に一礼すると、乗ってきたタクシーでそのまま去っていった。
見送りが終わり家に入ると、玄関で有志がめんどくさいことになっている。
「たっだいまぁ」
「はい、おかえり。それにしてもあんま飲むなって言ったのに何こんななるまで飲んでんだよ」
玄関の段差のところに座らせると、すぐ家の鍵を閉めチェーンをかける。
座ったまま楽しそうに笑っている有志の靴を脱がしてやると、自分の靴も脱いで有志を抱きかかえた。
「わぁ抱っこされたぁ息子にだっこされたぁ」
「はいはい、とりあえずリビングいくよ」
「智希でっかくなったなぁ」
「………」
抱きついてきた有志。
智希は全神経を集中して理性を保っている。
正直酒くさいのだが、自分より細く薄い有志に抱きしめられると、そのままきつく抱きしめ返してしまいそうだ。