「姫川………って、泉水さんと仲いいんですか?」
「なんで」
「いや、昨日部活終わったあと二人で喋ってたし」
1年の名前も知らない奴3人がその姫川に何かするかもしれない。
言おうか、言うまいか。こめかみに汗を垂らしながら迷う。
言えば智希のことだろう、絶対姫川を助けると思う。
そんなことをしたら姫川はさらに智希のことを好きになるに違いない。
「…あぁ、あいつな、なんか俺のファンらしくて」
俺もだよ。ってか1年全員だよ。
心の中で佐倉が溜息を付きながら答える。
智希には、ライバルが多すぎる。
でもその中でも自分と同じ感情を持つ奴は、たぶん姫川だけだろう。
あいつはなんだか危険だ。
「んで、お疲れ様でしたって元気良く声かけてきたら、俺もお疲れーって言っただけ。あ、あと20周レース頑張ったなって褒めた」
ち、羨ましい。
「そうなんですか」
「なに、なんで姫川?」
「いえ、俺も最近姫川と喋るようになって、あいつだけ泉水さんと話してたから中学のときの後輩かなんかかなーって思っただけです」
「………ふーん」
特に引っかからなかったんだろう、緩い返事をすると携帯を取り出し時間を確認しやばいと目を大きく開かせる。
カシャンと音を鳴らしてフェンスの扉を開けると一度振り返り佐倉に叫んだ。
「じゃあまた部活でな」
「ありがとうございました」
「なんもしてねぇよ」
少し照れるように智希はコートを出て足早に去っていった。
佐倉はいない智希の残像を思い出しフェンスを見つめていると、教えてもらった携帯の番号を見つめ急に胸が苦しくなり目を閉じた。
「……やべ、めっちゃ遅刻」
家に着いた頃には18時10分を回っており、とりあえず風呂だと脱衣所へ急ぐ。
3分でシャワーをすませ髪の毛をドライヤーで乾かしていると、携帯がなっていることに気づいた。
「誰だ、真藤かな」
ドライヤーを止めコンセントを抜くと、携帯のディスプレイを見てその人物に驚いた。
佐倉から、メールだ。
『今日は1on1ありがとうございました。やっぱ泉水さんはすごいですね、まだまだ全然です』
「……そんなことないって…」
独り言でも謙遜は忘れない。
『俺の体のことは気にせず、ガンガンやってもらって大丈夫なんで』
「……なに言ってんだ」
『泉水さん』
「?」
その言葉で終わっていた。
なんだ、間違えて送信したのか?
そう思っていたが、スクロールを押すと下にどんどん下がっていく。
まだ、ある。
「…………」
最後の最後、本当に最後に。