「泉水さんに追いつきたいからね」
「…………」
綺麗に弧を描いてシュートされたボールは、吸い込まれるようにゴールの中に入っていった。
思わずその綺麗なフォームは言葉を失う。
「先輩」
「……ん」
「ワンオンワン、しませんか」
「……別にいいけど汗だくじゃん」
落下したボールを拾い振り返ると、その爽やかな笑顔のままボールを床に置き指を差し出した。
「1日だけ」
「ん?」
人差し指を出して智希を見つめるその行動はまだよくわからない。
「ワンオンワンで、10分以内に俺が泉水さんからポイント取れたら、1日だけ俺のこと好きになって」
「はあ?」
「いいでしょ、1日ぐらい」
ニコリと笑いその妖艶さに負けそうだ。
「1日だけって……」
「ずっとでもいいですよ」
「それは無理」
「即答っすか」
機嫌悪く口をへの字に曲げると、諦めないと智希に近寄りもう一度人差し指を出す。
「お願いっ!1日だけっ!」
「………いいよ。そのかわり本気出すからな」
「了解です」
智希はiPodをコートの端に置くと、軽く柔軟をしながら佐倉の元へゆっくり歩いた。
「……容赦ないですね」
「いやあでも何回か危険だったよ」
佐倉はコートに寝転びゼーハーと息を荒くして倒れている。
智希も座り込み汗を流しながら空を見上げると、澄んだ空が暗くなり始めていた。
勝敗は、智希の勝ちだ。
佐倉は悔しい反面、憧れの人とワンオンワンが出来ることに喜びを覚えていた。
これで1点入れてたった1日だけでも自分のモノになればいいのに…と、少し後悔は残るが。
「…また……勝負してくださいね」
「しないよ」
「なんで」
「賭けが、不純すぎる」
「…………」
言い返すことができず黙っていると、足音が聞こえ智希が近くにいるとわかった。
でも、顔はまだ上げない。