第1章
52

「泉水さんに追いつきたいからね」

「…………」

綺麗に弧を描いてシュートされたボールは、吸い込まれるようにゴールの中に入っていった。
思わずその綺麗なフォームは言葉を失う。

「先輩」

「……ん」

「ワンオンワン、しませんか」

「……別にいいけど汗だくじゃん」

落下したボールを拾い振り返ると、その爽やかな笑顔のままボールを床に置き指を差し出した。

「1日だけ」

「ん?」

人差し指を出して智希を見つめるその行動はまだよくわからない。

「ワンオンワンで、10分以内に俺が泉水さんからポイント取れたら、1日だけ俺のこと好きになって」

「はあ?」

「いいでしょ、1日ぐらい」

ニコリと笑いその妖艶さに負けそうだ。

「1日だけって……」

「ずっとでもいいですよ」

「それは無理」

「即答っすか」

機嫌悪く口をへの字に曲げると、諦めないと智希に近寄りもう一度人差し指を出す。

「お願いっ!1日だけっ!」

「………いいよ。そのかわり本気出すからな」

「了解です」

智希はiPodをコートの端に置くと、軽く柔軟をしながら佐倉の元へゆっくり歩いた。



「……容赦ないですね」

「いやあでも何回か危険だったよ」

佐倉はコートに寝転びゼーハーと息を荒くして倒れている。
智希も座り込み汗を流しながら空を見上げると、澄んだ空が暗くなり始めていた。


勝敗は、智希の勝ちだ。


佐倉は悔しい反面、憧れの人とワンオンワンが出来ることに喜びを覚えていた。
これで1点入れてたった1日だけでも自分のモノになればいいのに…と、少し後悔は残るが。

「…また……勝負してくださいね」

「しないよ」

「なんで」

「賭けが、不純すぎる」

「…………」

言い返すことができず黙っていると、足音が聞こえ智希が近くにいるとわかった。
でも、顔はまだ上げない。
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