第1章
51

「ん?」

もう少し目を凝らして見て見ると、佐倉だった。



「っ…ほっ」


もう何時間もここで練習をしているのだろう、汗だくだ。

シュートを打ってはボールを取り、またシュートを打つの繰り返し。
いつ終わるかわからないその表情は少しゾクっとした。

「………」

思わず、フェンスの扉を開けて入ってしまった。
イヤホンを取ってゆっくり中に入っていくと、気づいたのか佐倉が警戒しすぐ後ろを振り返った。

「っ…はぁ…はぁ……え、泉水さん??」

「あ、やっぱり佐倉か」

佐倉は本当に驚いた様子で持っていたボールを思わず落としてしまった。
ポンポンと跳ねながら智希の方へ向かっていく。

「お前んち、近所なの」

「あっ…いえ………秋田に…この辺でバスケできるところ聞いて…チャリで…」

「秋田?あぁ、特待の奴か」

「あいつはこの辺近所らしく…」

「へぇ」

なぜか佐倉は緊張していた。
いつものような余裕さはない。不思議だ。

「?なに、なんでそんな驚いてんの」

「いや、まさか休日も会えるって思ってなかったんで……」

「嬉しい?」

「はい」

「……………」

こっちが照れるっての。

言われた本人ではなく、おちょくろうとした本人が顔を真っ赤にした。

佐倉のボールを取り自分のボールと重ねて器用に持つと、照れ隠しのように近づいてボールを返した。

「……どうも」

「お前、どのぐらいここにいんの?汗びっしょりじゃん」

「……今何時すか」

「………17時30分過ぎ」

「じゃあ…3時間ですね」

「そんな?!」

「はい」

呆れた。
そう顔で言うと、佐倉はクスっと笑い汗を袖で拭きながら返されたボールを手にして走り出した。
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