第1章
50

「やばい、寝ちまいそう」

起き上がると音楽を止めパーカーにジーパンというラフな格好のままバスケボールを持って部屋を出た。

階段を降りながら携帯を見ると17時30分ほどで、15分ぐらい汗を流すため公園に行こうと思いつく。
携帯、そして家の鍵とバスケットボールだけを持って外へ出た。

4月といってもまだまだ肌寒い。
太陽はまだ沈んでいないけれど、寒さのせいか人通りは少ない。

土曜日の夕方ともなれば近所の子供達が親に連れられて家に帰ったり、買い物から戻ってきたりするというのに。

「やべ、寒いな」

運動しに行くからといって軽装過ぎたかと身震いすると、向こうから仲良さそうに手を繋いで歩いてくる親子がいた。

「…………」

子供は5歳ぐらいだろうか、前をドロだらけにしてニコニコしながら歩いている。
頬が赤くやんちゃそうな男の子だ。
そのドロだらけの子供に、怒っている様子は全くない母親が幸せそうに子供を見下ろしていた。

誰が見ても思う、幸せそうな親子。

「母親か」

通りすぎたとき、ちょうど子供の声が聞こえた。

「今日ね、お父さんと一緒にお風呂に入る約束したの」

「そう、よかったね」

「うん!」


「…………」


母親との記憶は全く無い。
恋しいとも思わない。
むしろ、後ろめたい。

智希は目を閉じその親子とすれ違うと、ぎゅっと手を握り少し、震えた。



家から徒歩1分ほどにフェンスで囲まれたバスケット場がある。
バスケット場といっても1面のみで、ここの土地の持ち主が元々バスケが好きで作ったらしい。

今では誰でも使っていい公共の場となったが、たまにガラの悪そうな奴等がタバコを吸っていたりするのでよく確認をしてから。

智希はiPodを付け音楽を聴きながらそっとコートの中を見ると、先約があったようでゴールが揺れる音がした。

「ち、先約か」

残念そうにその場を去ろうとすると、ふと誰かに似ていることに気づく。
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