「お帰りですか?」
「あっ、あぁ」
やっぱり声はでかい。
「あ、あの、あの」
「ん」
「おおお疲れ様でした!」
「ぷっ」
「??」
あはは、と声を出して笑うと、何故そんなに笑っているのかわからない姫川の頭からハテナマークがたくさん飛び出ている。
「お前、それ言うためだけで走ってきたの」
「はっはい。先輩を見つけたんでっ」
「タオル握りしめて?」
「はいっ」
なんとも可愛らしい。
清野がからかうから少しビビっていたが、ただの可愛い後輩だと思えばなんともない。
それに、ここまで慕ってくれるのは嫌じゃない。
「今日姫川凄かったらしいな」
「へっ」
「20周レース。30人以上の中で6位だろ。特待の奴も抜かしたみたいだし」
「えっとあっえっあのっ」
まさか褒められると思っていなかったのだろう。
暗闇でもわかるぐらい姫川の頬は火照っていて、タオルがどんどんグシャグシャになっていく。
「体力があるのはいいことだよ。技術なんかいつでもいくらでも身に付く。頑張れな」
「はいっ!!」
「……お疲れ」
「っしたっ!!!」
深く深く90度体を曲げて礼をすると、ブンっと音がなり風が吹き起こった。
くっくっくっ…おもしろい奴。
嬉しそうに笑いながらその場を後にすると、姫川はその智希の後ろ姿を見えなくなるまでずっと見ていた。
泉水先輩………
もはや、目はハート型である。
そんな穏やかな空気の中、危険因子が潜んでいた。