「え、結構早くね?」
「泉水のタイム越したか?」
「いや、残念だがあの超人タイムは越せてねぇよ」
「でも誰だ?これなら歴代3位確定なタイムなんじゃね?」
ざわざわと響く講堂の中に一番乗りで入ってきたのは。
「……戻りました」
佐倉だった。
「やっぱ佐倉ってすげぇんだな」
「2位の秋田と3分以上離れてたし」
「なんか周回遅れ何人もいたらしいぜ」
「すげー」
「去年の泉水を思い出すな」
「俺っすか」
更衣室で部活を終えた上級生が着替えながら今日の20周レースについて話していた。
1年生は例により体育館の掃除中だが、専ら話題は佐倉だ。
「でもやっぱお前の超人タイムには追いつかなかったな」
「当たり前っす、簡単に抜かしませんよ」
「でも歴代3位だって。すげぇなー」
智希はふと、思った。
もしかしたら今日俺の飲んでなかったらもっといけたかも?
なんだか少し、罪悪感だ。
「姫川ってのも凄いんだな」
「ぶっ」
「ん?どした智希」
「別に」
姫川の話が聞こえただけで反応してお茶を噴出してしまった。
乙女のように智希を見つめる姫川には困っている。
実際は、それを見てからかってくる清野に、だが。
「あんまパっとしない奴だなーって思ってだけど、6位だろ」
「俺今日初めてあいつ知った」
「ひでー自己紹介の時あいついたのにー」
ゲラゲラと笑う更衣室の中で智希は携帯を開き有志からのメールが着ていないことを確認すると、大きなスポーツバックを背負い先輩に一例した。