「そんでもって、あいつの持つ20周の記録、歴代で1位だ」
「…………」
今度は沈黙に変わった。
空気が一瞬にしてピリっと痛く感じるほどで、さっきまで煩く喋っていた部員もマネージャーも鳥肌が立つほどじっと大谷を見つめている。
「早く、帰ってこいよ」
大谷の甘く、しかし険しい言葉が部員全員に突き刺さる。
「よーい」
はっ、と気づいたら最後、気持ちを切り替えることの出来るものが好スタートを切れる。
「スタート」
一斉にマネージャーはストップウォッチを押し部員達は高ぶった感情のままグラウンドを走り始めた。
「おかえりキャプテン」
「うす」
大谷は女子マネたちに愛想を振りながら後を任せると、早々に練習を始めているバスケ部へ戻った。
各自シュート練習、ドリブル、基礎をしている。
「いやー今年の一年は可愛いねぇ」
「なに、またサドッ気発揮?」
「大谷さんって優しそうな顔してドSだもんなぁ」
「あははは」
否定しねぇし。
そこにいる部員全員が心の中で突っ込みをいれる。
「とりあえず楽しみだよ。誰が一番最初に来るか」
「俺は秋田だと思う。あいつまじ体力ありそう」
「いや、佐倉だろ。あいつ無駄のない走りしそう」
「え、でも羽田とか…」
「そこ煩い!練習しないなら帰れ!」
「……っませんでした!」
こちらも毎年恒例。
一番最初に帰って来る1年を当てるという先輩のみが味わえるゲーム。
ちなみに去年は全員智希が一番だと言っておもしろくなかったようだ。
時間は過ぎて、出口の扉が開く音がする。
一番乗りの1年生が帰ってきたようだ。
先輩達は楽しそうに手を止め出口を見つめ誰だ誰だと賑わう。
この時ばかりは顧問も興味があるため一時中断することを許した。
智希も、汗をリストバンドで拭いながらその扉を見つめる。