「あーグラウンド20周かー考えただけで憂鬱だよな」
「なーまじダルい。佐倉って体力も自信あんの?」
「そんなに。普通より走れるだろうけど」
ストップウォッチを持った女子マネと一年生がグラウンドで軽く準備運動をしながらスタートを待っている。
本日陸上部はミーティングの為グラウンドを使わないからとても広々だ。
「姫川って体力なさそうだな」
特待生の一人で背も高くごつい男、秋田が姫川を見下ろす。
「普通だって。ってか秋田同じ中学で一緒にバスケしてたんだからどのぐらいかわかるだろ!」
「へぇ、姫川と秋田って同中なんだ」
「うん、佐倉は?」
「俺は県外。今じいちゃんちに泊めてもらってんだ」
「へぇ」
意外そうにそこにいた全員が声を出した。
「そこまでしてこの高校来たのって……」
「…………」
姫川の質問にニヤリと答えると、キャンプテンの大谷が笛を吹いて一年生全員をこちらに向かせる。
「いいか、さっきも監督が言ってたけど、一番最初に体育館に戻ってこれた奴は俺等上級生とミニゲームそしてフォームの練習が出来る。おいしいご褒美だと思って頑張れ」
「っす!!」
体育会系の雄たけびがグラウンドに響くと、一斉に全員がスタートラインに立った。
「2位以下は隅っこでずっとドリブルとパス練ねー」
「えええええええ」
また、雄たけびが。
よーい、と声を張った大谷だが、そうだそうだ、とまるで今思い出した様にわざとらしく言うと、折角やる気が出たのにと後輩達に野次られる。
「ちなみに去年20人いた新入生で、グラウンド20周レースでぶっちぎりの1位を取ったのは泉水だ」
「………」
「おぉー」
「やっぱりか!」
「すげぇ」
「流石だな!」
野次も歓喜に代わり、智希を称える声が響いている。
姫川はさらに惚れましたと言わんばかりに目を輝かせ、佐倉は嬉しそうにニコリと笑う。