第1章
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その日の部活、佐倉はいたって普通だった。

新戦力ともなった佐倉をはじめとする特待生が加わり、顧問の熱も上がって行く。
特待生だからと言って贔屓をしない彼は一年生全員にグラウンド20周を告げると、早く終わったものから中に入り上級生と交わってのミニゲームを許される。

もちろん、マネージャーに全員分の周回をメモらせている為ズルは出来ない。

「それにしてもほんと泉水サマサマだよな」

「…なんすか」

準備運動をしている智希の肩に清野が手を回しニヤニヤと顔を覗き込む。
いかにも嫌な予感がすると身震いする智希の耳元に話しかけた。

「今年は女子マネ希望もいーっぱい」

「…………」

語尾にはハートが見える。
特待生のクラスは男子のみだが、普通科は男女混合のため女子がいないわけではない。

同じく特待生の清野は嬉しそうにニコニコとストップウォッチやタオルの準備をしている女子達を見つめると、もう一度智希の耳に顔を近づけた。

「ででで。告白された?」

「…誰にですか」

清野の手を軽く払い今度は柔軟を始めようと床に座ると、同じく清野も座り込み同じ体勢で目を輝かせている。

「女の子達に」

「……先輩、きもいっす」

はぁと大きく溜息をつくと、そんなんされてないですよと言いながら前屈をする。
体は柔らかくペタリと床に腹をつけると、つまらないのだろう、清野が智希の背中を強く押しさらに前のめりにさせる。

「いっいでででっいでっ!ちょっ!まじ先輩!痛いからっ!!無理無理無理!!もう無理!!!」

「ほんとはされたんだろ」

「さっされてないっ……いででで!!!」


「じゃあ、姫川には?」

「っ…………」

ピタっと止まる。
智希の呼吸も止まる。

「嘘っ!されたのか???」

「ちがっ!…姫川にはされてませんっ!」

「……には?」

「…………」


しまった、と息を飲み前屈から逃れようと横に転がると、おもしろいおもちゃを見つけたように清野はさらに智希に覆いかぶさった。
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