第1章
32
その言葉が過去形だったことに気づいたのか、佐倉はハっとし申し訳なさそうに眉を下げる。

「3歳の時にな、交通事故で亡くなった」

「そうなんだ…すみません」

別に、と智希が言うと、佐倉は再び頬を撫でとても愛おしそうにゆっくりキスをする。

「……避けないんですか」

「避けようと思ったらもう目の前に顔があった」

触れるだけのキスを1秒。
何かが、始まる音がする。

「……言っとくけど、絶対俺はお前を好きにならないぞ」

「わかんないよ」

「わかるよ」

「………好きな人がいるとか?」

「…………」

「……報われない恋だとか?」

「…………」

佐倉はクスっと笑うと、智希の首に手を回し背伸びをして再びキスをした。
今度は深く、甘いキス。

「っ…んっ」

「………」

必然的に舌は絡まりあい、智希も腰に手を回し舌を出して答えている。
最初のキスとは違い数十秒キスをすると、どちらからともなく唇を離し唾液の糸を引いてゴクリと喉を鳴らした。

「…じゃあさ、こうしよう。俺はその人の代わりに抱かれるよ」

「……セフレってこと?」

「んーそうとも言うけど……」

少し不服そうで、口を尖らせ天井を見上げる佐倉。
こんな大胆なことをしてもまだ幼いその顔に笑みがこぼれる。

「俺、欲求不満だから毎日ヤろうって言うかもよ」

「いいよ。俺も泉水さんと毎日ヤりたい」

なんという殺し文句だろうか。
先ほどまで佐倉に付き合うのはよそうと思っていたのに、気づけば下半身が少し反応し始めていた。

俺ってほんと欲求不満。

自分の分身に情けなく思いうな垂れると、再び佐倉が濃いキスを求めてきた。

「っ………」

「んっ……」

痩せ身ではあるが女の子みたいに華奢でもなければ柔らかさもない。
しかし佐倉のキスと発言、行動は智希の心を揺らがせていて、我慢できず腰を突き出した。

「…………お前、勃ってんじゃん」

「……泉水さんも少し反応してんね」

重なるその部分は熱を持ち始めていて、佐倉にいたっては形がわかるほど高鳴り始めている。

「辛いね、泉水さん」

「ん?」

「泉水さんは俺と毎日ヤれる、でも好きな人ではない」

「…………」

「俺は泉水さんとできるけど、好きになってもらえない」
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