「先輩さ、一目惚れって信じる?」
「信じない」
「じゃあ運命は?」
「…………」
それは……そう言い、即答できず再び立ち止まった智希の腕を掴み歩き出した。
「ちょっ…なん…だよ」
「なんか、泉水さんと俺って似てる気がする」
「は?」
「とりあえずさ、確かめようよ」
「どうやって」
簡単に振り払うことは出来たけどなんだか振りほどけなくて。
購買部を抜け奥の廊下へ進むと、普段特別授業がない限り使わない化学実験室に入った。
智希の方が一年先輩だが、こんなところに教室があったなんて知らないほどあまり知られていない教室。
「……開いてんの?」
「さっき開けておいた」
「どうやって」
「………ナイショ」
フっと笑いながら自分を見る佐倉を見て、初めて少し、色っぽいと思ってしまった。
ガラガラガラ…
扉は本当に開いていて、薄暗い自然光だけの明かりが微かに見える。
あまり使われていないため、やや埃っぽい。
ガラガラガラ…
今度は扉が閉まる音が聞こえると、暗幕のカーテンをよけて奥に入り佐倉は智希の腕を引いて教壇の方へ導いた。
「…………」
そこまで純情でも、バカでもない。
これから佐倉がナニをしようとしているのか、もちろん気づいている。
だけど出てくるのは味気ない言葉で。
「……何。ここになんか用事なのか」
「…………」
しかし佐倉は全てわかっているのか、焦る様子もなく恐ろしいほど余裕の顔で教壇に手を付き片方の手で智希の顔を撫でた。
「………泉水さんって、あんま男くさい顔してないんだね」
「母親似だから」
「綺麗な人なんだ」
「……あぁ、綺麗だったよ」