第1章
30


「………今日の父さんはちょっと純情すぎたな」

イったらすぐに冷静になる。
出したままのシャワーを下半身にあて、白濁の液を流しついでに体も洗っていく。

自慰の後は必ず虚しくなる。
椅子に座り髪の毛を洗いながらボンヤリ電球を見上げた。

「早く彼女作らねぇとなー」

そう小さく呟き大きな溜息をついた。



「泉水さん」

「………」

2時間目が終わりお腹がすいたので購買部へ行こうと渡り廊下を歩いていたら、あまり馴染みのない声で呼び止められた。
休憩時間ともあって周りがざわめく中で振り返ると、よく知っている人物に少し眉を顰める。

「……佐倉」

「ちは。どこ行くんですか?」

「……飯買いに。じゃ」

あまりこいつに近寄ってはいけない。
本能がそう言っていて、すぐに向きなおしポケットに手を入れながら歩く。

「……先輩、俺のこと避けてます?」

「…………」

ついてくるなよ。
正直嫌な顔をすると、佐倉は逆に嬉しそうに微笑んで智希の隣を歩いた。

「じゃあ、ちょっとは意識してくれてるってことですか」

「アホか。俺は男に興味ないの」

「俺も、男には興味ないよ」

「………」

姫川までいかないが色素のやや薄い髪の毛を風になびかせながら、挑戦的に智希を見つめている。
ゴクリと唾を飲んだ智希は、思わず立ち止まってしまい佐倉を魅入った。

「俺が興味あるのは泉水さんだけだよ。好きなのは泉水さんだけ」

「…………」

なんとも情熱的な告白。
でもなんだか少し、自分と被っていて。

「…なんで俺なんだよ」

ボソリと呟くと、また不機嫌そうに渡り廊下を歩いて行く。
急な動きに若干とまどいながらも佐倉も付いていき、自分より背の高い智希を見つめニッコリ笑う。
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