第1章
26



蛇口から流れる水の音はとても平和に聞こえる。
この平和がもうすぐ崩れ始めると、二人は知るよしもないのだけれど。

「先にお風呂入っていい?」

「……どうぞ」


今日は風呂場でか。
そう思いながらシャーペンを動かす。

時計を見れば10時を過ぎていた。
課題と言っても明後日までにすれば問題ないので、有志のいないリビングに用はないと自分の部屋へ戻る。

家にいるときは携帯を携帯しないためよく彼女や真藤に怒られるが、今日は珍しく部屋着であるジャージのポケットに入れていた。
だからといってこまめにチェックをしているわけではないが。

「メールだ」

バタンとドアを閉め中に入るとすぐ電気をつけ、オーディオのCDボタンを押しお気に入りの洋楽が流れる。
ハードではないがロック調の歌が部屋に響き溜息を付きながらベッドに腰を降ろした。

「誰だこのメアド」

知らないアドレスだった。
迷惑メールか。そう思いながら受信箱を開くと、その文章と絵文字の使い方でなんとなく誰だかわかった。

「?……あぁ、あいつか」

内容は以下の通り。

『久しぶり。元気?その…もう一回ちゃんと話し合いたいなって思ってるんだけど。智希はまだ私のこと好きでいてくれてるかな』

いわゆる、元カノだ。

「好きでいてくれてるもなにも……携帯番号消去してたっての」

返信する様子もなく冷めた視線でその文章を読み終えると、3週間前の修羅場を思い出しベットに倒れこんだ。


『なんで私の誕生日一緒にいてくれなかったの!』

『ごめん』

『もういいっ!そんなにお父さんがいいんならお父さんと付き合えば?!』

『っ……』


ときに、女は恐ろしいことを言うなと思う。
それが出来たら毎日コソコソと親の目盗んで親のこと思いながらオナってねぇっての。

「あーヤりたい。シたい。ヤりたい。シたい。セックスしてー」

ゴロンと体を丸め辛そうに顔を布団に埋めると、それは意識があったのか無意識だったのか。
右手をジャージの中に突っ込んだ。

「……とっ…さん」
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