4月といえどまだ肌寒くて、汗をかいたあとなので若干冷えてくる。
もう一度タオルで汗をふき取ると、用事がないんだったら、と佐倉に背を向け部室へと歩き出した。
「あ、泉水先輩」
「なにー」
今度は振り向きもしない。足も止めない。
「俺ね」
「うん」
「先輩に惚れてますんで」
「へ?」
全く理解不能だ。
そんな顔をしながら振り返ると、女の子にモテそうな綺麗な曲線の目と筋の通った鼻をした男がニコっと笑っていた。
「じゃあ、また明日」
「…また…明日」
再び笑いかけると、体育館へ戻りモップを持って掃除を始めている。
モテ期?
そんなことを思ってしまった。
「部活どうだった?」
「あーうん、1年結構入ってた」
「何人ぐらい?」
「わからん。30人はいるんじゃね」
「そんなに?」
「でもだいたい半年すればいつも半分以下になって、1年経ったら1桁になるよ」
智希が大好きで大切な時間。
自分が作った料理を必ず褒めてくれて、おいしそうに頬張る有志を見つめながら向かい合わせに座り、自分も食べる。
テレビはつけず、ずっと二人だけの会話の時間。
「後輩はどう?」
「………」
箸の手が止まる。今日の出来事を思い出し血の気が引いてしまった。
もちろん思い出した人物は姫川と佐倉だ。
全く違うタイプの二人だが、強烈さはまだまだ未知数。
「あー、うん。まあ、凄いやつが入ったっぽい」
なんとも後味悪い返答をすると、最後のから揚げを口に運んだ。
「凄いやつって、智より?」
「俺の方がすごい」
父には強さを誇示する。