あははと部員が笑い、緊張していた新入生もほぐれたのかクスクス笑っていた。
清野はバスケ部の切り込み隊長みたいなものだ。
性格もそのままで、誰からも好かれている。
清野がそんなことを言うから…と、姫川の目が直視できない。
抱かれたいってなんだ。
そんな目であいつは俺を見ているのか。
それは清野の冗談?
でももしかしたら本当に姫川は…
きゅっと唇を噛み締めゆっくり姫川を見てみた。
「っ…」
「………」
目が合うと、頬を染めながらすぐ逸らす。
嘘だろ。
智希の頭の中で清野の声が響いている。
お前に抱かれたいって目で見てんぞ
じゃあ俺は、毎日父親のことを抱きたいって目で見ているのだろうか。
気づいているだろうか。いや、それはないな。
若干、いやかなり人の感情に鈍い有志が気づいているわけがない。
それは断言できる。
有志が薄着で部屋をウロウロしているとき、リビングで服を着替えているとき。
全て智希は有志に欲情している。
父さんのあとの風呂は絶対風呂場で抜くからなー
俺ってつくづく変態だな
まるで他人事のようにぼんやりそう思っていると、突然耳に残る高い笛の音が鳴った。
急に現実に戻され目をチカチカさせながら顧問を見ると、どうやら新入生対2、3年でミニ試合をするらしい。
「いきなり先輩達と?!」
「まじで、絶対ボロボロじゃん」
新入生達は始める前からブーイングに対して、2、3年は淡々と準備をしている。毎年恒例だからだ。
「あ、智は審判だって」
「え、まじで」
同級生の阿部が笛を持ってきた。
準備運動をしていた智希は残念そうにそう言うと、渋々笛を持ち点数カードの前に立つ。
「泉水さん出ないだ」
「見たかったなー」
また新入生がザワザワ騒いでいるところを今度はキャプテンの大谷が笛を鳴らした。
「はいはいー。泉水のプレイが見たかったら必死に攻めてけー」
「……はいっ!」
一致団結した1年だった。