いつも通り玄関の鏡で髪型を整えると、まだリビングにいる有志に聞こえるように声を出す。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい」
すると、必ず答えてくれる。
どんなに有志の体調が悪くても、どんなに急いでいるときでも、お互い出かけるときは必ず声をだした。
このご時世でここまで仲が良いとやはり不思議がられるけど、二人にとって当たり前で普通のことだ。
一度もグレたことがない智希は近所でも評判の良い息子だった。
もちろんみんな、本当の感情は知らないけれど。
「あ、先輩」
「…おー姫川、おはよう」
「っ……!!」
「ん?」
下足室で偶然、昨日の大物後輩姫川に会った。
姫川はどちらかというと反射的に呼んだようだったが、智希におはようと言われてから身動きをとっていない。
驚いて固まってしまってるようだ。
「どうした?」
上靴に履き替え姫川のところへ寄って行くと、昨日と同様顔を真っ赤にして大きな目をさらに大きくさせている。
「おおお」
「お?」
「俺のこと覚えてくれてたんですね…!」
下足室にいた何人かが二人を振り返った。
姫川の騒音はまだ治っていない。
「お前ね、昨日会ったのに忘れてるわけにだろ。俺そこまでバカじゃないよ」
「ちっ違いますそういうんじゃなくて…!!」
あわあわと身振り手振りいかにも焦っているようで、流石の智希もおかしくなってきた。
本当に自分のことを尊敬してくれているのだと少し嬉しくなり自然と笑みもこぼれる。
「じゃあ放課後、部活でな」
「はっはいっ!」
また、通行人の注目を浴びた二人だった。
部活には特待生のほかに、普通科もいる。
大半特待生がレギュラーを勝ち取るため段々普通科の人間は止めていくが、智希の所属しているバスケ部は少し変わっていた。
バスケ部顧問の須賀はこの学校の卒業生で、特待生ではなく普通科で3年間バスケで汗を流した。
その時やはり普通科であるというだけで特待生からイジメ、差別を受け辛い思いもした。
だから自分が顧問をした時は絶対に分けず、実力主義でいこうと決めていた。
実際顧問になった年はやはり生徒と何度も対立したが、次第にその熱さと顧問としての素質を発揮し、今では誰からも慕われる顧問となった。