有志がひとまず大丈夫と聞いて余裕が出てきたのか、智希は溢れ出る疑問を抱えながら重里を見る。
「重里さん、あの」
「ん?」
体勢を起こし改めると、重里も智希に向き直しじっと見る。
「父さん、どこで倒れたんですか?」
「え、会社だよ?」
「でも今日は会社休みなんじゃ」
お互い驚いている。
医療の薬品が匂う中、会話のキャッチボールができずハテナマークを浮かべた。
「お父さんから聞いてない?今日は休日出勤だったんだよ」
聞いていない。
「今週ずっと忙しくてね。でも泉水さん今週はどうしても早く帰りたいからって、平日早く帰る分、朝は早く来て土日出勤してたんだよ」
今、智希の頭に響いているのは、有志の言葉。
『あ、あのさ。今仕事が一段落ついてて…今週は早く帰れそうなんだ』
そんな、そんなまさか。
「でも泉水さんやっぱ凄くて、全部ちゃんとこなしてたんだよ。智希君の作った弁当は忙しいながらも毎日嬉しそうに食べてね」
もうやめて。
「そんで今日、俺もたまたま仕事残ってて一緒にいたんだけど」
自分の小ささがどんどん浮き出てくる。
「泉水さん、朝からちょっと顔色悪くてさ。本人は大丈夫って言ってたんだけど」
その間、自分は何をしていた?
有志が一生懸命働いている間、何をしていた?
「11時過ぎぐらいかな、立ち上がった途端椅子から転げ落ちて」
ずっと俺は、拗ねていた。
「息はしてるけど起きなくてさ、俺びっくりしてすぐ救急車呼んだんだけど」
重里の話を聞きながら、智希は自分の愚かさに泣き崩れそうだった。
あんなに、必死に時間を作ってくれていたのに。
俺がしていたことは……。