第2章
72
有志がひとまず大丈夫と聞いて余裕が出てきたのか、智希は溢れ出る疑問を抱えながら重里を見る。

「重里さん、あの」

「ん?」

体勢を起こし改めると、重里も智希に向き直しじっと見る。

「父さん、どこで倒れたんですか?」

「え、会社だよ?」

「でも今日は会社休みなんじゃ」

お互い驚いている。
医療の薬品が匂う中、会話のキャッチボールができずハテナマークを浮かべた。

「お父さんから聞いてない?今日は休日出勤だったんだよ」

聞いていない。

「今週ずっと忙しくてね。でも泉水さん今週はどうしても早く帰りたいからって、平日早く帰る分、朝は早く来て土日出勤してたんだよ」


今、智希の頭に響いているのは、有志の言葉。

『あ、あのさ。今仕事が一段落ついてて…今週は早く帰れそうなんだ』


そんな、そんなまさか。


「でも泉水さんやっぱ凄くて、全部ちゃんとこなしてたんだよ。智希君の作った弁当は忙しいながらも毎日嬉しそうに食べてね」


もうやめて。


「そんで今日、俺もたまたま仕事残ってて一緒にいたんだけど」


自分の小ささがどんどん浮き出てくる。


「泉水さん、朝からちょっと顔色悪くてさ。本人は大丈夫って言ってたんだけど」


その間、自分は何をしていた?


有志が一生懸命働いている間、何をしていた?


「11時過ぎぐらいかな、立ち上がった途端椅子から転げ落ちて」


ずっと俺は、拗ねていた。


「息はしてるけど起きなくてさ、俺びっくりしてすぐ救急車呼んだんだけど」


重里の話を聞きながら、智希は自分の愚かさに泣き崩れそうだった。

あんなに、必死に時間を作ってくれていたのに。


俺がしていたことは……。
[153/171]
←BACKNEXT→
しおりを挟む
novel





























第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -