「っがう、違うっ違うっ!俺はこんな事望んでない!」
通行人達は全力で走り抜けて行く智希を不思議そうに見ている。
幸い練習試合高校から中央病院は近く、学校から大人の足で20分程だった。
その道則を智希は手ぶらのまま走り続けた。
「はぁ、はぁはぁ」
病院についた頃にはヘトヘトになっていたが、気合いだけで受付へ急ぐ。
「すっ、すみません、泉水有志はどこですか」
「えっ」
ユニフォーム姿で息を乱した少年が看護師につめよる。
若い女性看護師は少し頬を染めながら智希を見上げると、急いで名簿を見始めた。
「たぶん、救急か何かでついさっき運ばれたと思うんですが」
「あっはい、あった……!今は普通病棟の305号室です」
「普通病棟…」
「あ、ここを真っ直ぐ進んでもらって、突き当たりを右に進んだ3階です」
「真っ直ぐで右…。ありがとうございます」
「あ、はい!いえ!」
看護師は智希に見とれながらお辞儀をし、ポーっとなっている。
汗に濡れて高揚している智希は確かに色っぽい。
「305…305…」
病室の番号を確認しながら歩いていると、【緊急用病室301〜305】と書かれた看板を見つけた。
「こっちか…」
角を曲がり少しすると、見知った人間がいた。
重里だ。
「あぁ、智希くん」
「重里さっ!父さんはっ」
「うん、倒れたって言っても軽い貧血だから大丈夫だよ。目が覚めたら帰っていいって」
「貧血…」
はぁはぁと肩で息をしながら重里の座る長椅子に智希も座ると、うなだれるように壁にもたれた。
「練習試合、だったんだって?」
「あ、はい」
「泉水さんがね、今日は智希の練習試合だけど色々あって応援行けないんだって寂しがってたよ」
ん?
ふと、疑問が出てきた。
よく考えれば何故ここに重里がいるのか。
今日は日曜日だ。会社はない。
有志はどこで倒れたんだ。
そういえば、何も聞かずやってきた。