「?」
顧問が向かった先は、智希だった。
「泉水っ!大変だ!」
「?」
中断されたゲームは耳に残響音が残るほど静かで、顧問の声だけが体育館に響いている。
智希はリストバンドで汗を拭うと、腰に手を付き耳を傾けた。
「お父さんが、倒れたそうだ」
サーっと、血の気が引いていく。
顧問も智希の顔色の悪さに気付いたのか、心配そうに肩を掴み顔を覗き込んだ。
「試合は気にするな、大事なお父さんだろ、中央病院だ」
「かっ、監と、く」
「智希、あとは任せろ」
「清、さん」
みんながまるで自分の事のように心配し、声をかけているのに。
「俺、おれ」
智希は動かない。
動けない。
「泉水さん」
「佐倉」
そこへ一年で唯一背番号を貰えた佐倉が、軽く汗をかきながらコートに入ってきた。
急いで簡単なアップを終え向かったようだ。
「俺、泉水さんと交代だって」
佐倉の顔は興奮しているのか冷めているのかわからない。
声のトーンは、とても低い。
「ほら、行ってください」
「佐倉」
「これは、泉水さんが望んだこと?」
智希は息を飲みやっと動いた足を回転させ顧問に一礼した。
「すいません!失礼します!」
「おぉ、気をつけてな」
「慌てんなよ」
「落ち着いて、な」
「はい!」
メンバーや練習試合校の生徒、審判に深く礼をすると、ユニフォームのまま体育館を飛び出した。