「あの二人の表情見てると誰がどうみても…」
今度は強めの風が吹き耐えれず佐倉は目を閉じた。
それでも智希は、やはりこの学校のエースだった。
「すげぇ」
「部活中プレイは見てたけど」
「俺、この高校入ってよかったわ。練習辛いけどこの人のプレイ間近で見れるなんて…この人と一緒に練習できるなんて」
「一年、全員泉水のプレイに魅入っちゃってますね」
「まぁ、あいつはな。本人は気に入らないだろうが、天才だ」
「天性?」
「まさか、あいつは努力の天才だ」
前半が終わった頃にはダブルスコアで智希達の高校が勝っていた。
うち、半分が智希の得点とアシストだった。
決して相手が弱いわけではない。県大会に出場したこともある私立校だ。
ただ、智希の本気が凄いだけ。
智希が指揮を取る対抗試合を初めて見た者、中学の時に一度見ていた者、一年全員が唸り、見とれる。
清野やキャプテンの大谷も素晴らしい動きをしているのだが、智希の動きに比べるとどうしても霞んでしまう。
毎回思うけど。
こいつほんと俺ら先輩に花持たせる癖にちゃっかり自分が一番目立ってんだよな。
「清さんっ」
「…おっしゃ」
清野は汗を拭いながら褒めているのか悔しがっているのかわからない想いになっていると、絶妙なボールを智希から受け取りゴールへ走り出した。
悔しいけど、こいつには勝てねぇ。
プライドの高い清野さえも唸らせる。
「はぁ、はぁ」
智希は肩で息をしながら得点と時間を見た。
この試合、まず勝ちだろう。
だからといって絶対油断しないのが智希なのだが。
後半が始まり軽く流しながら体育館を走る。
黄色い声援も多い。
他校だというのに智希の人気はまるで芸能人クラスだ。
同じ学校の生徒達も何人か応援にきていて、視線はもちろん智希。
大学のスカウトか、スーツを着た大人もいる。
智希目当てだろう。
しかし、智希が本当に見てもらいたい人はここにはいない。
自分で拒否っといて、来てないことに苛立つなんて。
幼さに軽く笑った。
まるで馬鹿にしているように。
観客を端から端までゆっくり見ていると、後半戦が始まったばかりだというのに笛が鳴り響いた。
「?」
「なんだ?」
「タイム?」
ザワつく選手達の中を智希達の顧問がコートに入ってきた。
とても急いでいるようで、審判に何度も礼をしながら険しい顔をしている。