第2章
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「先輩、ちょっといいですか」

「試合始まるぞ」

「5分だけです」

智希はボールを持ちアップしようとしたが佐倉の真剣な言葉と表情に観念して、ボールを持ったまま佐倉の後をついて体育館の裏側へ向かった。

「どうした」

「意外でした」

「?」

体育館のすぐ裏のため、アップをしている選手達の声、バッシュの音、ボールが跳ねる音がよく聞こえる。

「先輩のお父さん。見れたらラッキーぐらいで行っんだけど、全然先輩に似てませんでしたね」

「昔はちょっとだけ似てたよ」

「そうなんですか?」

茂みのある体育館裏は、あまり人の手入れが行き届いていないのか雑草があちこち自由に生えている。
その中を軽く分けながら歩くと、花壇を見つけその壇に佐倉が腰を降ろす。
智希は立ったまま空を見上げ飛行機雲を目で追っていた。

なんでもない、軽い会話。

「似てたから…変えようと思って牛乳いっぱい飲んで運動もして筋肉つけた」

「もしかしてバスケ始めたのも肉体改造のためとか?」

「一番身長高くなるスポーツはなんだろうって思って、バレーとバスケ悩んでたまたま中学がバレー部なかったからバスケ部にしたんだ」

「ははっまさかそんな理由で?泉水さんのこと大尊敬してる奴等が聞いたら泣きそうだな」

「俺は尊敬されるほど凄い人間じゃないから」

「へぇ」

佐倉が壇に手をついてニコリと笑う。チラリと見た智希は目を泳がせ再び空を見た。

「凄く可愛い人でしたね。先輩ぐらいの息子がいるって絶対思わないですよ」

手に持ったボールをクルクル回しずっと空を見ていると、ガサっと音が聞こえた。


「?誰かいるのか?」

「?なに?何も聞こえませんよ?」

気のせい…か。
そう思うと智希は来た道を戻り始めた。

「5分経った。戻るぞ」

「今日はお父さんとお話できましたか?」

ぴたりと止まる。

「ダメだったんですね」

佐倉の顔を見ていないけれど、この声のトーンからしてきっとニコリと笑っているのだろう。
悔しいが、事実のため動けない。

「泉水さん、子供すぎて情けないですよ」

「ほんと、な」

智希はそれだけ言うと、とても辛そうに佐倉を見つめすぐに目を反らし体育館の入り口へ戻っていった。

残された佐倉は花壇の花を見つめ大きく溜息をつき目を閉じた。

「隙さえあれば好きになってもらう自信あったんだけどな」

風が髪の毛を揺らし、体育館からは笛の音が聞こえてきた。
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