第2章
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智希は無言で買ってきた食材を冷蔵庫に直しながら、何か考え事をしているのだろうか眉間にしわが寄っている。

「練習試合どこで?何時から?行くよ」

冷蔵庫の前でしゃがむ智希を見下ろしながら、必死に訴えているというのに。
今の智希には響いていないようで。

「いい」

「大丈夫だって、今仕事暇だから…なんだったら平日でも有給取って」

「いいって。練習試合だし」

「でも佐倉君、監督が大事な試合だって言ってたって」

「っ……」

「えっ」

ガタン。
大きな音を立てて何かがばらまかれた。
智希が直していた野菜たちだ。
冷蔵庫の周りに食材が散らばったと思ったら、有志は簡単に足払いをされ床に押し倒された。

「つっ…」

それは突然だったため有志は背中を強打した。
驚いて見上げると息を荒げた智希が覆い被さっていて、熱い息がかかるほど接近していた。

「ちょ、智っ!」

振りほどこうと思っても、完全な力の差でビクリともしない。
肩を押さえられさらに抵抗出来なくなると、何か喋らないと。そう思う有志だが冷や汗ばかり出てくる。

「と、智希。落ち着け。ごめん、俺が悪かったから」

「それは何に対して」

「っ………」


心臓が、鷲掴みにされたよう。


「入ってこないで」

「智希……」

震えている。
泣いているだろうか。
いや、泣いてはいない。

怒り、悲しみ。
何にたいして震えているのか。
智希本人にもわからない。

「ごめん、今日のご飯はなんか適当に作って」

「とっ」

ボソリと言葉を発すると、あんなに高揚していたというのに、智希は簡単に有志から離れ台所を出て行った。

二階の扉が閉まる音が聞こえる。


有志はまだ、立ち上がれずにいた。
倒れた時の背中の痛みと、智希に拒絶された痛みが連動して涙が流れる。

冷たいフローリングの上で、有志はひたすら声を殺し下唇を噛んだ。



これじゃあ拗ねてるだけじゃないか。

「父さん」

部屋に戻った智希は膝をつきながら崩れ落ちた。
静まり返った部屋は何も映し出してくれないし、何も答えてくれない。

自分が何をしたいのか、どうしてほしいのかわからない。

生まれて今まで有志に逆らったことがなかった。
逆らおうと思わなかった。
いつでも隣にいてくれて、いつでもいい意味で自由にしてくれた。

辛い、悲しい、苦しい。
その感情を父親にぶつける術を、智希は知らなかった。

避けるしかない。

遠まわりで幼稚な行動。
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