時代はシグマやアルファがまだ幼少のころにまで遡る

一家を、そしてヴァリアーを震撼させた幼い日の記憶

それは皆の心に大きな爪痕を残し、未だその傷を引きずっているのだ










「シグマー、あんまり本ばっか読むと目が悪くなりますよー」

「だって、面白いんだもん」


ぶ―たれたように唇をとがらせ、本から顔をあげたことにほっとする。

もう何時間にらめっこしていたのやら・・・



これが最近の夫婦目下の悩みなのである。



そう、シグマは本の虫なのだ。
それはそれでいいことなのだが、如何せん比率と限度というものが有る。


いったん興味を持って集中し始めたら、時間などおかまいなし。
いつまででも書庫にこもりっきり。
いつか体を壊すのではないかと二人でひやひやしているのだ。


そして、もうひとつ。


戦闘に関するスキルを磨きたがらない


もちろん、ベルフェゴールとフランの血をついでいるのだから、戦闘センスは格段に優れている。
それはすでに確認済みだ(やったら勉強してもいいという条件付きで)

だが、疲れてどうしても睡魔に勝てず、気になっていた本の続きが読めないのが分かると、さらに嫌がる様になった。


「頭脳は格段にいいんですけどねー」


どうしてもこんな家業をしている以上、頭脳だけでは乗り越えられない事も沢山ある。

いつ命を狙われてもおかしくないし、出来る事なら自己防衛だけでも出来る程度には、育て上げたいのが本音だ。


しかし、戦闘でなくても頭脳で役に立つという道も有る。
最終的にはこの子の思いどおりにやらせてあげたいが。


「どうしたもんですかねー」



「ママン?」

「いえ、なんでもないですよー
そうだ、もうちょっとしたらアルファが起きるので見てきてくれませんかー?」



すると急に目を輝かせ始め
「うん!」

と満面の笑みですやすや昼寝中のアルファのもとに駆け出した。


いくら本が好きでも、たった一人の妹相手には弱いというのは最近発見したばかりだが、こう兄妹仲良くなってくれたらうれしい。


彼に良く似た金色の後姿を見送りながら、おやつの準備に向かうのだった。





「アル、アル」

まどろむ中で誰かが自分を呼んでいる

「・・・にぃ?」

「うん、ママンのおやつの時間だよ」

「おきりゅ。。。」


差し出された手を握って、もそもそとベットを出る。

自分の体温より少しひんやりした兄の手はなんだか落ち着く

「きょうはにゃに?」

「さぁ・・・、クッキーとかかな」







「そーだ、言い忘れてたことがありましてー」

むしゃむしゃおやつ(結局クッキー)を食べながら、2人が顔をあげると少し困ったような顔をしたママン


「明日、2人だけでお留守番できますかー?」


「「ふたりだけー?」」

「そうですよー」


実は明日どうしても人出が足りず、育児休暇中の自分まで駆り出されたのだ。「スクアーロ作戦隊長とパパンが午後には帰還予定ですからそれまで」

「にぃもいっしょ?」

「そうですよー」

「ならだいじょうぶー」


へにゃと笑うアルファをみて、シグマも目で頷く


「頼みますー」


と、2人の頭をなでた。




誰もが最善と考えたこの判断が、すべての引き金となったのをまだ誰も知らない



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