王子ちかう




好き、やだ、捨てないで、

壊れたスピーカーのように伝え続ける


本当は少女が未来に帰るまでずっと黙っていようとも思った


捨てられる前に自分から離れようとも思った


だけど、あんな……あんな優しく囁かれたら


我慢なんてできない


この場所から離れるなんてできない


彼の肌が涙で濡れていくのが分かった



この想いが全部全部彼の心に染み込んだらいいのに


彼の心を全部全部満たせたらいいのに


そんなこと……できないのに






彼女の言葉の端々から、自分の最悪な予想が当たったことを悟った


どうしようもない苛立ちと独占欲が自身を埋めつくす


好き、俺の方がお前を好きだ

やだ、お前は俺のだろ

捨てないで、ずっと一緒にいるって約束したろ





壊れたスピーカーのように伝え続ける彼女の口を塞ぐ


口内を隅から隅までまさぐって 全てを飲みつくすように


「ベルっ、せっ…ぱい」

「ん……、フラン」


合間に囁かれる名前が愛しくてしょうがない


あぁ、こんなにも愛し合っているのに


フランの頬に両手を当てて、触れるか触れないかの距離まで顔をぐっと近づけ、こてんと額を合わせた



「フラン、一回しか言わねぇからな」


涙に濡れた翡翠の瞳にじっと見つめられる


そうだ、それでいい


「俺だけ見てろ、今お前の目の前にいる俺をみろ」


目移りなんてすんじゃねーよ








「っ……!!はいー」


自分の瞳いっぱいに写る彼の素顔


厚い前髪の隙間から見える蒼い眼光が自身の心を捉えて離さない、離してくれない


愛しさと安心でまた涙が溢れてくる


彼を好きでいていいんだ

彼の隣にいなくちゃいけないんだ


言葉にしなくとも

頬に触れる手のひらから
見つめられる瞳から


彼の気持ちが痛いほど伝わってくる


なんだ、自分は何を心配していたのだろう


こんなにも彼に愛を注がれているのに


「お前を幸せにできるのは俺だけなんだよ」


センパイ……それってそれって「未来で他の奴なんかにお前を渡してたまるかよ」

それだったら今ここで未来を変えてやる


「……プロポーズみたいですー」


「うしし、それはまたちゃんとしてやるし、今は婚約ってとこか」


でも、それでも

「幸せにして下さいよー」


彼との未来の約束がこんなに嬉しいなんて


今日1日で泣いてばかりだ

「わっー」

思わず彼の首に抱きつく

姫抱きにされてベッドに落とされて


そのまま彼にくみしかれる


「お前が誰のものか分からせてやるよ」


見下ろす彼の自分を欲してぎらつく視線に


胸がキュッと締め付けられる


そんなの……そんなのもう 分かりきっているのに


降ってくるキスを受け止め愛し愛されて


溺れるほどの幸せに包まれて夜は過ぎていった




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