蛙すがる



“ラジエル”


その一言が胸に突き刺さり、心が悲鳴をあげる


「う……そ、でしょー」


『ミー、嘘つけないもん。あっ、未来のこと喋っちゃったーっ、また“にーに”に怒られるーっ、あっまたっ、ミーのお馬鹿さんーっ!!』


内緒ですよー、なんてすがるように見つめられる

「……センパイじゃ、ないんです、ねー」


『ほぇ??あー、あのお目目がない人ですかー、確かにパパンに雰囲気似てますけどー、パパンはもっともっともっっっとかっこいいんですー!!』


「アルファは……パパンが大好きなんですねー」

『ですー!!でもママンの方がパパンのこと大好きなんですー!!』


「そう……ですかー」



『ママン……??大丈夫??あとミーがやっとくから先におやすみしたほうがいいですー』


心配そうな視線を向けるアルファの言葉


空気を読めないこの子が空気を読めるくらい今の自分はひどい顔をしているのだろう


「お言葉に甘えますー、お風呂とかベッドとか自由に使っていいですからー」


そういって部屋をでた


一目散に向かったのはやはり彼の、愛してやまない彼のところで


いつものようにとんとん、と二回ノック


「開いてるぜ」


内側から聞こえる声に安心して中に入ると


(あれ、誰もいないー??)

確かに声はしたのに

突然後ろからぎゅっと抱きしめられる


「うしし、お待たせ♪」

驚いて後ろを振り返ると
上半身裸で首からタオルを下げただけのベルフェゴール


おそらく風呂上がりなのだろう


程よくついた綺麗な筋肉
厚い胸板、逞しい腕

溢れ出す雄の色気に目眩がする


今の自分の顔は真っ赤だろう


「風邪引きますってー」

顔を隠すように彼の胸に顔を埋め、手を背中に回す


するともう一度、抱きしめられた


額から、腕から、身体中から伝わってくる体温に傷ついた心がまた騒ぎだす


こんなにも、こんなにも愛しいのに


きっと、彼以上に好きになれる人なんていないのに


彼じゃなきゃ嫌なのに

全部全部彼がいいのに


残酷にも未来は二人を引き離すのだ未来では自分が彼に捨てられるのだろう


だって、自分が彼のことを嫌いになる日なんて想像できない


(センパイに捨てられたら…ミーは……ミーは)

いつか必ず来る未来にこらえていたものが爆発した


「フラン??」


胸に突然生暖かさを感じ、彼女が泣いていることに気づく


腕を緩めて顔を上げさせようとするが


とたんに更に強く抱きついてくる


一体部屋で何があったというのだ


「フラン、大丈夫だから」

まるで幼子をあやすように髪を撫で、手を彼女の腰にまわす


「何があった」


ぱっと顔を上げると遂に堰を切ったように泣き出した


「っセンパイ、センパイ」


好き、やだ、捨てないで

と切々に伝えてくるフランに、自分の最悪な予想が当たったことを悟った




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