「お前が好きだ。…付き合って、くれ」


その一言が、すべてを変えた。







全国大会への切符を巡る県大会が終わり、あと一歩のところで勝ち残れなかった岩鳶高校水泳部は夏休みにも活動を続けている。泳ぐことの楽しさを再確認した彼らは今日も目を輝かせながら水と戯れている。

私はつい先日、名ばかりではあるが水泳部のマネージャーに就任した。今までずっと江ちゃんの付き添いとしてたまに水泳部に顔を出していただけで、水泳に詳しい訳でもなく、はたまた運動が得意というわけでもない。でもどうせならお手伝いしてくれないか、という真琴さんからのお願いだった。


ピチャン、
水の零れ落ちる音が耳に響く。
練習が終わり、みんなが着替えている間にマネージャー二人で軽くプールの掃除をしながら、物思いに更けていた。

彼の、ことを思い出していた。
約束の日は今日だ。

「深雪ちゃーん?」

江ちゃんの声がして振り返る。不思議そうに私の顔を覗き込んでくる江ちゃんに、思わず後ずさる。綺麗な瞳に吸い込まれそう。

「ぼーっとしてるけど何かあった?」
「え、いや…別に?」

江ちゃんにも、誰にもあの事を言っていないけれど、江ちゃんの瞳にはすべてを見透かされてしまいそうで思わず目を逸らす。

「あ、そうだ!今日時間ある?こないだ言ってたアイス食べようよー!」

笑顔でこちらを見つめる江ちゃんを直視できず、掃除の手を動かしながら答える。

「ごめん、今日はちょっと用事があって…。明日とかじゃダメかな?」
「明日だと私がダメなんだよねぇ…。仕方ない、また今度誘うね」

残念そうに肩を落とし、江ちゃんは掃除の手を再開した。私も江ちゃんとアイス行きたかったなぁ。




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