そうして今に至る。海岸沿いを散歩した後、約束通りご飯を食べた。払うと言ったのに彼は私に払わせてくれなかった。そういう気前の良さもポイント高いんだろうな、と頭の片隅で考えていた。 もう日も暮れ、帰る時間が迫ってきた。さっき歩いていた海岸沿いをまた歩いているが、もう暗い。静かな浜辺に波の音だけが響いている。彼は腕時計にちらちらと目をやっている。時間を気にしているらしい。寮だから時間が決まっているのだろう。 「門限って、何時なんですか?」 「22時だな。お前、時間大丈夫なのか」 彼が気にしていたのは、私の時間だったらしい。 「遅くなるとは言ってあるので大丈夫だと思います」 「そうか」 手持無沙汰だった彼の手が、私の目の前に差し出される。 「…手、繋いでもいいか」 今度は許可を求めてきた。さっきは半ば強引に手を引いたのに。 「……」 どうしたものかと考えていると、彼は少し寂しそうに手を下した。違う、断ったわけじゃない。ただ、恥ずかしくて。恋人でもないのに手を繋ぐのが、怖くて。このまま彼に甘えてしまえば、本当に好きになってしまいそうで。 「あ、の!その…」 「なんだ」 「…手、繋ぎたくないとかじゃなくて、その…」 何と言えば彼を傷つけないで済むんだろう。 「恥ずかしい、んです。それに、私たち付き合ってるわけでもないですし…」 「…そう、か。それもそうだな」 彼の寂しそうな笑顔が目に焼き付く。違う、そんな顔をさせたいわけじゃない。 「でも!その…」 空いたままの凛さんの手を掴む。彼は、驚いたように私を見つめる。 「…手、繋ぎたい、です」 そう言うと彼の耳が、赤くなった。恥ずかしそうにそっぽを向いて、そして私の頭をもう片方の手でわしゃわしゃと撫ぜた。髪がぐちゃぐちゃになったのを、少し拗ねながら私は手櫛で直す。 どこからどう見ても、カップルなんだろうな。と考えて頬が熱くなる。 「…少し散歩したら家まで送ってやる」 「はい」 もう大体修まったはずの髪を触りながら、彼の歩くスピードに身を任せていた。 ← 5 → back |