夕日は、もう沈んだ。辺りを照らす灯りは電灯ばかりで月の光はあまり届かない。

凛さんと二人きりになってから、なんとなく岩鳶高校まで戻ってきた。夜の学校には人気がほとんどない。職員室の方に灯がついているくらいだ。高校まで来たのは、特に理由はないけれど、自分がいつもいる場所にいれば少し落ち着くかな、と思ったんだけれどそんなことはなかった。彼の存在が、大きすぎる。
頬に集まる熱はきっと彼にもバレている。さっきから会話があまり続かない。

「…実は俺、お前にメール送ったんだけど」
「え?」

慌てて携帯を開くと、確かに数件メールが着ていて、その中に松岡凛の名前があった。



to:日野深雪
from:松岡凛
title:Re:
―――――――――
今日、練習早く終わったから
少し会えないか



着たのは私達もちょうど部活が終わった頃だった。普段ならたぶん、気付いたのに今日はあまり携帯を触っていなかった。メールが着ていたのは知っていたが、迷惑メールだと思っていた。何より、凛さんと会う日はいつも事前に決めていたから、こんなこと初めてだ。

「ごめんなさい、携帯あまり触ってなくて…」
「いや、まぁ…結局会えたし、いいんじゃねぇか」

凛さんが優しく微笑んだ。ああ、この笑顔が好きだ。
最後に会ったのは2週間前だった。時間にすれば僅かなのに、ずっと会っていなかったように感じる。

「…日野」

彼の声に熱が含まれている。瞳が、私を見つめる。凛さんの言いたいことはわかっている。彼に言わせる前に、言わなければ。

「あの、凛さん」

頬が熱い。告白なんて、いつぶりだろう。

「わたし、凛さんのことが…好きです」

目を見ていうつもりが、恥ずかしくて結局下を向いてしまった。どうしよう、いくら凛さんでも、もう気持ちが変わっているかも。いや、でも今日会いたいって言ってくれたんだから…いや、そもそも今日はお別れを言いに来たとかだったら…

「……え」

凛さんの間の抜けた声がした。恐る恐る顔をあげると、凛さんは目を見開いて私を見ている。

「本当、か」
「え、あ、えっと…すき、です…」

2度目の告白もやはり恥ずかしくて顔が熱くなる。凛さんは私を抱き締めた。初めての彼の腕の中は、とても心地良くて、涙が出そうになる。愛しさが溢れてくる。

「変わらない、なんて約束はしてやれねぇ。でも今の俺はお前が好きだ。それじゃ、ダメか」

彼の言葉が私の心にじわりじわりと染み渡り、凍っていた心が溶けていく。
この人のことを、信じたい。また傷つくかもしれない。それでもいい、信じたい。
返事の代わりに彼の背に腕を回し、ぎゅっと抱きついた。

「キスしてぇ…」
「え、」

彼の手が頬に添えられる。思わず固く目を瞑ると、彼の動きが止まった。

「嫌ならちゃんと言えよ。これからはもう遠慮しねぇぞ」
「へ、えっと……っん」

答えるより先に唇が触れた。凛さんは戸惑い、顔が赤い私を見て意地悪そうに笑った。

「これから覚悟しとけよ、深雪」

名前呼ばれたのはじめて。だなんて、呑気に考えているとまた唇が重なった。優しいキスに微睡んだまま、このまま時が止まればいいのに。そう思いながら目を閉じた。

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