耳元で鳴っているかのように、心臓の鼓動が早鐘のように体全体に鳴り響いている。手に汗握るとはまさにこのことで、今俺のこの手には、人の命がかかっている。呼吸がだんだんと早くなり、水の中にいるかのように呼吸が苦しくなっていく。震える手に力を込めて、ただ一点に視線を集中させていると、その肩に触れる手があった。不思議なことに、振り返らずともその手から伝わる温もりで誰か分かってしまった。優しく触れるこの手は―――…


 あの不思議な少女との邂逅からわずか数日。そう、たったわずか数日なのだが、彼女の姿を見ていないことに不安を抱いている自分がいる。彼女――深雪とは兵部のあの扱いからいって中々会える存在ではないことは予想がついていたが、会って話がしてみたいと思っている自分がいる。それはただ理由もなく、直感的にそう思っているだけにすぎないことなんだが。ただそれまでに、この能力を抑えなければ彼女と話をすることはできないのでその方法を考えておかなければならない。
 そんなことを考えていた矢先、次の任務に俺も関わることが決まり、目的地に向かうクルーザーに乗ると彼女の姿があった。彼女はユウギリと一緒に座って楽しそうに外の景色を眺めている。何やら会話もしているようだ。テレパスを送って話す彼女の話は俺には聞こえないが、どうやら外の景色――イタリアの街の話をしているようだ。

 物資の補給と裏工作員の排除を行い、クルーザーを降りて街を歩く。真木さんはどうやら他の裏工作員を探しているらしく今は一応その報告待ちなのだが、彼らは観光気分で寛いでいる。今は川沿いのテーブルでユウギリと深雪がソフトクリームを食べている。兵部はその近くに椅子を持ってきて座っている。
「深雪」
 兵部が彼女の名を呼ぶ。それに応じて振り返った彼女の口元にはソフトクリームがついている。
「ついているよ、」
そう言って兵部はそのソフトクリームを指で掬うとそれをそのまま自分の口に運んで食べた。
「ん、おいしい」
 兵部が微笑むと、彼女は恥ずかしそうに俯いた。

 ――といったような感じで終始二人はユウギリの真横でイチャついていた。教育的にユウギリにそんなところばっかり見せているのはどうなのだろうか。



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