定時報告。俺がこのカタストロフィー号に乗り込んで一週間が過ぎた。ここの連中は世界を震撼させている凶悪犯罪組織というには余りにも似つかわしくない雰囲気で、少し気が抜けてしまう部分がある。しかし、こいつらが実際に凶悪犯罪を行っている証拠はあるし、本人たちも自覚がある。ただ、彼らがどうして平気で犯罪を遣って退けるのか、その動機は未だ理解できない。しかし俺はそんなことよりも任務を遂行するだけだ――引き続き、任務を遂行する。

 新入りの仕事だと言われ、一日中甲板掃除や買い出しなど散々扱き使われ、疲れた体を引きずりながら自室の方に向かう。その前に、もう一度あのセキュリティレベルの高い区画への侵入を試みる。
「――よし」
 周囲に誰もいないことを確認し、ドアノブに手をかけた――その瞬間。肩にそっと手が添えられた。感づかれたのかと慌てて振り返ると、そこには見知らぬ女性の姿がある。
 銀髪のショートカットに、10代後半だと思われるその女性はじっと俺を見つめ、口を開こうとしてまた閉じた。どうやら能力を使おうとしたらしく、そのせいで頭が痛くなったようだ。
「あーごめん。その頭痛、俺のESPのせいだ」
 少し距離を取ればいいことを伝えると、彼女は俺から少し距離を取った。頭痛は少し治まったのか、頭に添えていた手を下し、そして彼女は困った顔をしたまま喉に手を当て、首を振った。
「もしかして、声が出ないのか?」
 だから精神感応を使って話そうとして俺のESPの副作用が出たのか。
「実は俺――」
 そこまで言いかけた時、彼女の後ろに人影が現れた――ボスの登場だ。
「彼はアンディ・ヒノミヤ。最近入った新人さ。彼の能力はESPの無効化だ」
 その声を聞いて彼女は振り返る。そして微笑む彼女を、兵部は抱きしめた。その様子はどうもユウギリを抱きしめる彼の様子とは違う―――おそらく、恋人か何かだろう。
「もしかして、そいつ…」
「僕の大切な――"メシア"さ」
「メシア?」
 彼女に触れるその手つきは、まるで壊れ物を扱うかのような優しい手つきで、俺の予想は間違いないと思われるが、"メシア"だと?一体どういう意味だ?
「今の君が知る必要はないし、教えるつもりもない。――それよりヒノミヤ、ここで一体何をしていたんだい?」
 兵部の眼光がギラリと光り、俺を捉える。その場はなんとか曖昧な笑顔を浮かべて適当に誤魔化した。兵部はたまに気づいているかのような態度を取るから怖い。バレていないと思うのだが、彼の能力は未知数だ。カンも鋭いだろうし、警戒しなくてはならない。
「そうかい。ならいい。おやすみ、アンディ・ヒノミヤ」
 そう言って彼女を抱いたまま兵部は瞬間移動でその場から立ち去った。危機一髪、といったところか。まさか兵部の恋人に見られるなんてな。今日は全くツイていない。


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