次の日。俺の歓迎も含めたパーティーが甲板で行われた。見渡してみても深雪の姿は見えない。まだ体調が悪いのだろうか。ぼんやりとそんなことを考えていると、後ろから足を蹴られ、振り返れば案の定兵部がいる。マグカップを渡され、それを受け取った。周りではカンパーイと桃太郎が発した後、みんなが挙って騒ぎ始めた。 「浮かない顔してるね。どうした」 「いや、まぁ…」 「深雪なら心配いらない。そのうち出てくる」 考えを見透かしたかのように彼は口角をあげた。乾杯、と杯を交わし一口飲むと、中はミルクだった。 「ミルクかよ」 「ミルクは若さの秘訣だぜ?」 それはよかった。俺にはまだ関係のない話だ。 『京介、ヒノミヤさん』 聞き覚えのない声が聞こえ、辺りを見回すと兵部の後ろの方から歩いてくる深雪が見える。俺がリミッターをつけたからようやく話せるようになったのか。 「もう、大丈夫なのか?」 彼女は兵部からマグカップを受け取ると、俺を見て微笑んだ。 『大丈夫。よく休んだし』 乾杯、と彼女がマグカップを差し出してきたので杯を交わす。彼女は笑ってマグカップに口を付けると、何やら兵部と話してから俺に向き直った。 『改めまして。はじめまして、アンディ・ヒノミヤさん。私は深雪と申します』 握手をして、俺も軽く自己紹介をした。兵部はその様子を見てからどこかに行ってしまった。 『私の能力は、テレパス、サイコキネシス、そして───ESP増幅能力です』 「ぞう、ふく?」 日本では自分の能力に他人の能力を上乗せして使うことが出来るブーストという能力活用方法が開発されたと聞いている。だがそれは上乗せしてESPを使ったエスパーへの身体の負担が大きく、一定時間力が使えなくなるらしい。もし、深雪の力がそれと同じようなものだとすれば───彼女は最強の能力者ということにならないか? 『増幅する、といっても無敵ではないんです。身体に多少の負担はかかります。でもブースト機能よりはもっと軽い──そうですね、ヒノミヤさんの能力のように頭痛や歯痛などのレベルですね』 「それは他人の能力も増幅できるのか?」 『できますよ。でも、流体コントロールが使えるエスパーにしか使えません』 流体コントロール───サイコキネシスを変形発動させた合成能力で、人間の生体活動、例えば心臓を止めたり、血流をコントロールしたりすることができる。兵部のような高超度のエスパーならば、持続的に力を使うことができる。だからあの時────… 「だからあの時、俺の手を握って試したのか」 『はい。いきなり触ってごめんなさい。あの時は話せなかったから』 そう言われて、ふと気づいた。なぜ、彼女は話せないのだろう。 「なぁ、なんで普通に話せないんだ?」 『それ、は…なんというか……』 「それ以上は許可していないよ、深雪」 彼女を俺から隠すように兵部が目の前に立ちはだかった。これ以上は聞き出せない、か。やはり彼女の情報は兵部に支配されているようだ。ほかの連中に聞いたときも、兵部に聞いてくれと頼まれた。 「深雪」 その時、あどけない少女の声がして、振り返ると俺の後ろにユウギリがいる。ユウギリは深雪の元に駆け寄って抱きつく。この二人は本当に仲がいいらしく、たいてい二人で一緒にいるようだ。 「あっちで、いっしょにごはん、たべよ!」 少女に手を引かれながら深雪は人が多くいるテーブルの方に行ってしまった。残されたのは俺と兵部のふたり。兵部は少し機嫌が悪そうだ。深雪を取られたからか、余計なことを俺が聞いたからか、どちらか、若しくはどちらもだろう。 「ヒノミヤ。一つ忠告しておく。深雪についてあまり詮索するな。いいな」 俺の返事を聞かずに兵部はそのままどこか、恐らく深雪の元に行ってしまった。 兵部がいないところで本人に直接聞く方法もあるが───恐らく不可能だろう。しばらくは兵部の様子を見て小出しに情報を聞き出すしかなさそうだ。 ← 6 → back |