部屋についていきなりベッドに押し倒され、真剣な眼差しが私の瞳を射抜く。私の視界には彼と、そして見慣れた天井がちらちらと視界の端に映る。触れた所から伝わる、彼の心は苛立ちと不安、焦りなど負の感情ばかりが綯い交ぜになって彼を締め付けている。壊したい、閉じこめて縛り付けてしまいたい、そんなことを彼はまた考えているのだろう。その頬に触れると、彼は固く目を閉じて、そのまま私を抱き締めた。
「深雪、」
 虫の音のようにか細い彼の声が、私の名を紡ぐ。彼の不安が伝わってきて私も彼の背に手を回した。
『…わたしは、どこにも行かないよ』
 頭を寄せた胸元から、心臓の音が響く。そっと彼から離れ、その頬に手を添える。彼の瞳に私が映り込むが、彼の目はどこか空虚で。前髪をそっと掻き上げ、髪を優しく梳いていく。彼はそれを何も言わずにただ黙って身を任せている。
『───京介、わたしはそんなに弱くない』
 真剣な眼差しを向けてみるも、京介はそれを見ずに頭を下げたため顔が髪で隠れてしまう。もう一度声をかけようとした刹那、彼の肩が揺れ笑い出した。
「くくっ」
『京介…?』
 不思議に思って名前を呼ぶと、彼は身体を起こした。その表情はどこか余裕があった。
「馬鹿だな、君も僕も」
 彼はそういうと私に口付けた。甘い口付けに身体が、心が痺れる。彼の優しい笑顔が少し歪んで見えたけれど、それ以上彼に話を聞けなかった。

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