「良かった!じゃあ」
「―――おい」
 修二は不満そうに呟いた。彼は光一の近くの机にコーヒーを置くと盛大に溜息を吐いた。
「お前らいい加減にしてくれよ。何でいつも俺の前で食事の約束するんだよ、しかも二人きりの」
 彼はそう言いながら自分の髪をぐしゃぐしゃと撫で、患者用の丸椅子に座った。それを言ったきり彼は俯いたまま黙りこんでしまった。私と光一のこのやり取りは今に始まったことじゃないし、それを見てこうして修二が怒るのは初めてのことだった。特に私はこうして修二が怒っているのを仕事を始めてから見たことがない。私と光一が困りきって顔を見合わせていると、修二はまた盛大に溜息を吐いて、立ち上がると少し冷めたコーヒーを一気に飲み干して言った。
「お前らが仲いいのも知ってるし、二人で食事行ってもやましいことがないのも知ってるけどさ。…正直ムカつくんだよ、それを俺の前でやられるとさ。なぁ、深雪。なんなの。俺への当てつけなの。俺のことこうして誘ってくれたこと一度もねーじゃん」
「それは…だって修二は空いてたら必ずメールくれるし…」
「それはそうだけどさ。違うだろ?色々おかしいと思わないのかお前は」
「そんなこと言われても…」
 突然修二に怒られて頭がついていかず、訳がわからないまま俯いた。
さっきまであんなに機嫌良かったのに。私だって嫌な思いしたけれどいつも通り黙ってやり過ごして、修二もホッとしてたのに今度は私が怒られるなんて。―――どうして。彼も同じようなことを散々してるんでしょう?しかも私とは違ってそれ以上に合コンとか患者にセクハラをしたりとか、職員口説いたりとか、嫌なことを散々してるんでしょう?なのに、なのに何でこんなに私だけ責められなきゃいけないの?光一との約束を出来るだけ修二の前でするのは隠し事をしたくないからなのに。どうして、どうして――…
「深雪…?」
「もう、やだ。知らない」
 目尻に溜まった涙が今にも零れ落ちそうだった。
「え、深雪…?」
 修二が戸惑いながらも私の肩に手を置いた。けれどその手を振り払い、私はそのまま黙って部屋を後にした。そしてそのまま廊下を走った。走りながら、今にも溢れそうだった涙をハンカチで拭って溢れる前に拭き取ろうとしたが、それでは追いつかず結局涙は手の甲を濡らした。

 取り敢えずトイレにでも逃げ込もうとしてトイレを探していると、後ろから聞き覚えのある可愛らしい声に呼び止められた。振り返るとそこにはチルドレンの三人がいて、私の涙を見ると吃驚して慌てて私に駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫か!?」
「だ、誰や深雪さんを泣かした奴は!」
「深雪さん、ちょっと診せてね」
 おどおどする二人とは引き換えに至って冷静に紫穂ちゃんに手を握られ慌てて振り払ったが紫穂ちゃんにはやはり適わなかった。





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