彼、賢木修二と付き合い始めて半年が過ぎた。お互いに忙しいため、あまり会う時間がなく、会えても月に2、3回で、ただ夕食を共にするとか一緒に買い物に行くとかその程度で、その他はこうして私が本部を訪れた時に寄ったとか、それくらいしかない―――そう、彼とはキス以上のことはしたことがない。ただの一度も。それを聞いて「あの賢木が!?」とみんな驚くが、彼は私の意思を尊重してくれているに過ぎない。彼とキス以上のことをするのが私は嫌なのだ。彼はこうやって何度も機会があれば狙ってくるが、私が全て断り続けている。初めこそ彼はただの照れだと思って楽しそうにしていたが、今では困り果てているようで。私の理由が分からないのが一番の原因なのはわかっているけれど、私は理由を言うつもりはないし、言いたくないし、言う度胸もない。
だから結局いつも言えないまま、こうして抱き合って終わるのだ。彼にとっては酷く苦痛だろう。でも私は、彼の温もりに触れて、その匂いを感じて、その鼓動を聞いていれば十分なのだ。それで酷く落ち着いて、安心して元気を貰える。彼にもそれは伝わっているのか、結局もう理由は聞かないまま短い逢瀬は終わる。
「ねぇ、深雪―――」
 彼の吐息混じりの声が耳元で聞こえ、思わずビクリと肩を震わせると彼は笑った―――その瞬間。
「おい、賢木……ってうわぁ!?」
「…くそ、空気読めよ。この野郎」
 ぼそりと修二は呟いた。それがまた耳元だったので私はまたびくりとしてしまった。慌てて彼から離れると、入ってきた彼は気まずそうに扉の所で立ち止まっている。
「わ、悪い…」
 空気を読めずに入ってきたのはもちろん、皆本光一―――私と修二の大学時代の同級生だ。彼は後ずさり、出直してこようとしたが修二がそれを止めた。彼は用事があってここに来たのだろうし、別にこれ以上何かをするつもりはなかったし。たぶん。
「お前ホントいつも空気読めずに入ってくるよな…」
「わ、悪いって。本当に。これからは気をつけるよ」
 そんなことを毎回言って結局失敗しているような気がするんだけれど、まぁそれは言わないでおく。修二はコーヒーを淹れるために立ち上がり、代わりに光一が診察用の丸椅子に腰掛けた。
「そういや久しぶりだな、深雪」
「久しぶり。でも一ヶ月ぶり?かな。あ、ねぇ光一。今日の夜空いてる?」
「今日か?空いてるというか、まぁ空けられるけど…」
「あ、そっか。チルドレンのことがあるのね」
「いや、まぁ大丈夫だよ。ちゃんと連絡しておけばな」





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