目を覚ますと、見知った天井だった。
でも自室ではないのは匂いで分かった。この匂いを、私はよく知っている。
寝ぼけた目を擦り、ゆっくりと体を起こすと隣がもぞもぞと動いた。
ほら、やっぱり。
「京介」
声をかけると、布団から腕が伸びてきてそのまま引きずり込まれた。
そして両腕でぎゅっと体を抱きしめられる。向かい合うようにして、軽くキスを交わすと、匂いを嗅ぐように首筋を鼻が擦り寄ってくる。
「きょう、すけっ」
「ん?なんだい」
「また勝手にテレポートさせたでしょ!」
仕事から帰って、疲れて部屋で寝た日は大体いつもそうだ。
初めは私の部屋に勝手に入ってきて添い寝していたが、最近では逆にテレポートで部屋に連れてこられている。
楽しそうに弧を描くその頬を抓ってやりたい。
「じゃあすればいいのに」
「っ!読まないでよ!」
君がわかりやすいんだよ、と楽しそうにそのままぎゅっと抱きしめ、首筋に甘く噛み付いた。
そしてそのまま流れるようにゆっくりと手が服に侵入して、
「ス、ストップ!たんま!待て!」
「僕は犬じゃないよ」
慌てて手で取り押さえるも適うわけはなく、なんなくそのままブラホックは外されてやわやわと胸を揉みしだかれる。
「京介、ちょっと待って…」
「どうしたの、もう気持ちよくなっちゃった?」
「違うよ、ばか」
肩あたりの服をぎゅっと握り、胸板に額を寄せると京介の心地よい鼓動の音が聞こえた。
このまま目を閉じれば、また眠ってしまえそう。
「途中で寝られることほど悲しいことはないからやめてね」
その言葉とともに刺激が増して、声を出さないようにきゅっと唇を噛み締めると、その気配を察知したのか片手が伸びてきて無理やり上を向かされ、キスをされた。
甘い甘い、吐息の漏れるキス。どんどん力が抜けていき、隙間から時々甘ったるい声が漏れる。
「別に無理に抑える必要はないじゃないか、なまえ?」
「っ、朝っぱらから、やだ」
「構うもんか」
もう一度キスを、と顔が近づいたその刹那。
扉をノックする音とともに、扉の向こうから真木さんの声が聞こえた。
「……」
至極不機嫌な表情になった少佐は黙りを決め込んでいる。
これは予想がついていたことなので、私が代わりに出ようとするとサイコキネシスでベッドに縫い付けられてしまい、結局京介が扉を開けた。
「…なんだい」
「書類をお持ちしました。至急片付けて欲しいものばかりですので、出来れば今日の日が暮れるまでにお願いします」
真木さんはチラッと私の方を見て気の毒そうな顔を一瞬した。
日常茶飯事ではあるが、いまだに真木さんは私を哀れんでくれる。そして恐らく私以上に少佐の我が儘に振り回されてる人だ。今度労わってあげよう。
「分かった分かった。今日中にやればいいんだろ」
「お願いします」
では、と真木さんは恭しくお辞儀をしてそのまま部屋を後にした。
じゃあそろそろ私も、と起き上がった瞬間に京介の手によりベッドに縫い付けられていた。
「…帰さないよ」
「でも仕事するんでしょ」
「嫉妬かい?」
「違うから!」
はいはい、と楽しそうに笑う京介の顔がそのまま近づいてきたので、仕方なく目を閉じた。
京介とのキスは、とても心地よい。
「それはありがとう」
「っ!読まないで!」
「あれ、」
仕事を終え、部屋に戻るとそこは綺麗さっぱり私物が撤去されていた。
すぅっと何かが冷えるのを感じた。心当たりは一人しかいない。
「きょう、すけ…っ!」
慌てて京介の部屋に駆け込むと、そこには案の定私の私物が無造作に置かれていた。
洋服などはどうやら新しく買ったクローゼットにいれられたようである。
「おや、どうしたんだい?なまえ」
「どうしたもこうしたも…」
「だって面倒だろう?わざわざ部屋に行かなくても会えるし、良いじゃないか」
そう嬉しそうに言い放った京介のその顔を見て、何も言えなかった。
確かに、私も嬉しい。たとえ京介がいなくても、京介の匂いに包まれて寝られる。
「部屋に帰ってきたら誰かがいるって、いいだろう?」
悔しいけど、素直に頷いてそのまま両手を広げる京介の胸に飛び込んだ。
Stand by me
君の隣にずっといられる幸せ
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