凛夢(大学生設定)
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「おはよう」
「おはよう」

教室の前で出会ったから思わず挨拶をしたけれど、お互いに目が合わない。気まずいのはお互い様らしい。そのまま特に会話をせずに席に着くと、凛は気づけば教室にはいなかった。どうやら入らずにどこかに行ってしまったらしい。喧嘩しつつも凛のことを探してしまう自分に思わず苦笑する。

「おはよー、なまえ。久しぶりだね?」

隣にリュックがドサリと置かれた。相手の顔を見上げると、そこにいたのは久々に見る同学部の男子だった。夏休み明けで少し顔が焼けている。海にでも行ってきたんだろうか。

「久しぶりー焼けたねぇ。海でも行ってきたの?」
「そうそう、結構焼けちゃってさぁ。なまえは海行かなかったの?相変わらず色白いね」
「行ってきたんだけど、体質的にあんまり焼けないんだよね」
「そうなんだ。色白い女の子っていいよね」
「そう?ありがとう」

この男の子、少しチャラいからあまり近づかないようにしてた、というか普段は凛とか友達といるから近づいてこないんだけれど、今日は一人なのを良いことに狙ってきているんだろうなぁ。
ガタン、と隣に荷物が置かれた。一瞬塩素の匂いが鼻を擽った。

「よう、久しぶり」
「お、凛じゃん。久しぶりー、相変わらず良い身体してんねぇ」
「サンキュ、お前も夏男っぽくていいんじゃね」
「いやぁ、益々モテちゃって困るんだよねぇ」

二人は楽しそうに私を挟んで会話を始めた。相変わらず彼はチャラい印象はあるけれど、冗談交じりに言っているとはわかっているから、まだ少し仲良くできる。けれどやはり凛が来たからか、彼は暫く凛と話すと違う席に移ってしまった。気を使ってくれたのかもしれない。

「……」

彼がいなくなってから、凛は一言も私に話しかけようとしない。黙々と授業の準備をしている。特に私はすることがないので本を読んでいると、凛もやることがなくなったのか携帯を触りながら音楽を聴いている。
普段なら喧嘩していても隣に座ってこないのに、今日はどうしたんだろう。男の子に話しかけられたから、なのかなぁ。

教授がやってきたので授業が始まった。真面目にノートを取りながら凛の顔をちらり、と覗き込んだ。凛も真面目にノートを取ったり、教授の話を聞いているようだ。
授業が半分くらい進んで、教授の無駄話が長くなってきたため手持ち無沙汰で少しぼーっとしていると、太腿に置いていた私の手に凛の手が触れた。

「…凛?」
「……」

凛は何も言わずに私の指に手を絡めてきた。表情は真面目だけれど、指は握ったりなぞったりと色々な動きをしている。絡められた指をぎゅっと握れば、ぎゅっと握ってきたし、すこし力を緩めれば、離さないようにぎゅっと握ってくる。

喧嘩した理由なんて、思い出せない。初めは凛が私の置いておいたプリンを食べて文句を言われたことから始まったような気もするし、私が凛の漫画をなくしてしまったからだったかもしれないし、わからないくらい些細なことから始まった。気づけば日頃の不満をお互いにぶつぶつ言い合って、言いたくないようなことで喧嘩してしまった。お互いに反省はしているのに、たった一言の「ごめんね」が言えない。

「…凛、」
「「ごめん」」

お互いの声が重なった。目を見合わせて、二人で笑った。授業中じゃなかったらきっと声を出して笑っただろう。ぎゅっと手を握り合い、小さい声で凛が話し出す。

「…プリン食ってごめん」
「…漫画なくしてごめん」
「…可愛くないとか、胸がないとか言ってごめん」
「……泣き虫とか、女々しいとか言ってごめん」
「……なまえ、」

凛が真剣な眼差しで私を見つめる。教授が授業を再開しているのに、どちらもノートを取ろうとしない。

「…お前がお前であるなら、俺はそれでいい。そのまんまのお前が好きだ」
「…胸がないと面白くないんじゃないの」
「……それは、まあ…あるに越したことはねぇかもしれねーけど…」

凛を睨み付け、手の甲に爪を立てると小さく凛は唸った。暫くお互いに睨み合うと、馬鹿らしくなって二人で笑った。

「…今日のお昼は凛の奢りね」
「は?何でだよ」
「なんとなく」

ふふ、と笑って凛の肩に少しもたれかかる。傍から見ればバカップルにしか見えないんだろうな。呆れられてもいいや、今は少しだけこうしたい。幸いこの教室は大きくて教授からも少し遠い席に座っている。あんまり目立つようなことをすると凛の部活に影響を与えてしまうけれど、ね。

「仕方ねえなぁ」

私の髪をぐしゃぐしゃ、と撫ぜると凛は私の頭をぽんぽんと撫ぜてまた真面目に教授の方に向き直った。私も凛から頭を離した。真面目に受けてみようと向き直るけれど、凛のことで胸がいっぱいになって集中できそうになかった。
凛が隣にいるだけでドキドキする。どれだけ長い時間一緒にいても、どれだけ喧嘩しても。一緒にいればいるほど好きになる。

「りーん」
「ん?」
「…好きだよ」

驚いたように凛がこっちを見ている。言ってから少し恥ずかしくなって俯いていると、凛はさっきよりもぐしゃぐしゃに私の頭を撫でた。せっかく整えてきた髪がぐしゃぐしゃになる、と手櫛で直していると凛はそれをまたさらにぐしゃぐしゃにしてくる。

「…そういうのは二人の時に言え」

ちらりと凛を見上げると、凛も顔が赤い。真面目ぶって前を向いて教授の方を見てはいるが、どうせほとんど話なんて聞こえてはいないんだろうな。

「はーい」

そんな凛が愛しくて、可愛くて髪を手櫛で直しながらまた教授の方に向き直った。
さて、お昼は何を食べに行こうかな。




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タイトルはなんとなーくしょうもないことで喧嘩したんだなって思ってほしかったんです。
嘘です、ノリです。たぶんこの二人同棲してます




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