2013誕生日
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 白い月が天の頂上で光り輝き夜を統べる頃、ようやく仕事が終わり大急ぎで船に帰り、彼の元に向かう。
 今日は彼の何度目かもう分からない、誕生日。別に祝わなくてもいい、と強がっていたけれど、本音に私は気づいている。けれど仕事が終わらず帰れなかった。彼も、それは分かっている。でも、でも─────せめて、日付が越えるまでに。
 彼の部屋に瞬間移動で入ると、彼はもう寝ていた。そっと彼の隣に潜り込み、彼の身体に寄り添う。暖かな体温と鼓動が伝わってとても心地よい。深く深呼吸をして、彼の匂いを胸一杯に吸い込む。すると僅かに彼が身動ぎ、手が伸びてきた。その手を掴み顔を覗きこんでみるが彼は目を閉じたままだった。そんな彼を見ているとこちらまで眠くなっていく。嗚呼、今日はもういいかな。生まれてきてくれてありがとう。その気持ちだけはどうか、伝わっていますように────






 目を覚ますと、こちらをじっと見つめている少佐と目があった。慌てて身体を起こすと彼はクスクス笑った。陽光が彼の銀の髪を照らしてキラキラと光っている。
「おはよう、なまえ」
「おはよう、ございます…」
 寝顔をずっと見られていたのかと恥ずかしくなって目を背ける。いつから見られていたんだろう、もしかして、起きてからずっとなのかもしれない。変な寝言とか言ってないといいけど…
「少佐、愛してる。って言ってたよ」
「なっ!あ、こ、心読まないでください!」
「違うのかい?」
 彼の顔がグッと近づいて、私の瞳を射抜く。肯定の言葉を求められているのは分かるけれど、恥ずかしい。
「僕を愛していないのかい?」
「な、それ、は…!その…」
 もごもごと口隠り俯くと、彼はため息を吐いた。
「昨日、誕生日だったんだけどなぁ…。君は全然帰ってこないし、待ってたんだけど待ちくたびれて寝てたら君も隣で寝てるし、寝言で真木の名前読んでるし。ホント、君っていう子は…」
「え、真木さんの名前!?」
 何それ、え、いったいどういう────あ、真木さんに怒られる夢を見た気がする。
 ちらり、と彼を見上げると彼はこちらをじっと見ていて、また目を反らそうとすると顎を捕まれた。
「こんなに虐げられて、可哀想じゃない?僕」
「それは、その…」
「相変わらず君ははっきりしないなぁ。昨日は擦りよって寝ていた癖に」
 まさか、起きてたの昨日!?
「で、僕のことどう思ってるの?なまえの口からちゃんと聞きたい」
 鼻先が触れるかどうかの至近距離で囁かれ、顔に熱が集まっていくのが分かる。目をぎゅっと瞑って掠れた声で呟くと、聞こえない、もう一回言われて目を開けるように促される。
「っ、恥ずかしい」
「目を見て言ってくれないと伝わらないな」
 ニヤリと口角をあげて笑っているのが目に浮かぶ。唇をぎゅっと噛みしめてから、目を開け真っ直ぐ彼を見て半ば叫ぶように言った。
「すき。…少佐が、好き!生まれてきてくれてありがとう!見つけてくれてありがとう!」
 途中からもう目を見ては言えなかったし、何だか色々とこみ上げてきて目には涙が貯まっている。そのままの瞳でこれで満足か、と見上げると彼は至極満足そうに微笑んでいる。この表情は、私にしか見せない表情だ。顔を隠すように少佐に抱きつくと、彼も私をぎゅっと抱き締め、ほっと一息吐いた──────その時
「少佐、もういいですか」
 扉の外から真木さんの声が聞こえ、少佐が返事をすると真木さんの他、紅葉さんや葉、それに澪や桃太郎まで入ってきた。
「……え、え、ええ!?」
 慌てて少佐から離れて距離を取ると、少佐はそんな私を見てクスリと笑った。状況が理解できず口をパクパクしていると、真木さんが代わりに説明してくれた。
「お取り込み中申し訳ない。実は昨日少佐の誕生日パーティーをしようとしたんだが、少佐にあなたがいないと意味がないと言われてな。帰ってくるのを待っていたのだ」
 それと、今入ってくるのと何の関係があってその、えっと。というか、あれ、いつから聞かれてたの、嘘、やだ。え、
 聞きたいことは山程あるけれどどれも言葉にならなくて、困っていると少佐がそれを読んで答えてくれた。
「僕がさっきテレパスを送ったのさ。もうそろそろ迎えに来てくれってね。そしたら君があんまりにも可愛いから、つい虐めたくなっちゃってね」
「な、そんな、少佐!……少佐のばか!」
 そんな私たちの様子を見て呆れたのか、真木さんたちは先に行って待ってると告げて部屋を出て行ってしまった。私も慌ててその後を追いかけようと立ち上がりドアノブを握った時、彼の呼び止める声がして振り返ると────キスをされた。
「つれないな、相変わらず。ちなみに、これはおはようのキスだからね」
 恥ずかしくて俯くとその顎を掴んで持ち上げられ、そしてまた何度もキスをされた。
 まだ素直に彼に甘えられない私だけれど最凶のこのエスパーとなら、上手くやっていけそうな気がする。素直じゃない私が好きで、彼に振り回されるのが好きな私と彼なら。


 ────誕生日プレゼントを忘れて一悶着あったのはまた別の話。





Holic
それはそれは、甘い媚薬。









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