「え、なまえ?ど、どうしたの?」
 慌てた様子で紅葉の手がすっと伸びてきて、私の目頭の何かを拭った。私もそれに合わせて反対の目頭に触れると、冷たかった。――涙、だ。
 慌ててハンカチで涙を拭って紅葉と葉に笑顔を作った。ごめんなさい、なんでもないと告げると二人は少しホッとしたように顔を見合わせて。紅葉は優しく私の頭を撫でてくれた。
「別に無理に笑う必要なんてないわよ」
「お、俺らなんか気に障るようなこと言ったか?」
「ううん、違うの。ただ、勝手に悲しくなっちゃっただけだから」
 だから二人は関係ないからそんなに謝らないで、と告げると葉は少し納得しないのか、むっつりとした顔で、でも一番の不安の原因であることを吐き出した。
「今日ジジイがいなくて良かった…」
「ホント。いたら私たち殺されちゃうところだったわ」
 くすっといつも通り笑う紅葉たちの様子を見ると、二人とももうこの事は気にしないでいてくれるらしい。こっちも心配をかけたくなかったから、その様子を見てホッとした。二人はそのまま食堂の方に行った。
 別に、泣いた理由は大したことではないのだ。ただ、少佐の年齢を改めて考えてしまって、不安になったのだ。そんなことは気にしないと少佐に言ったのは私なのに。いざ現実的に考えた時、少佐との未来を不安に思う私がいる。年齢差実に60歳。この年齢差を越えて恋愛は出来ても、寿命はいつまで続くのか。それが不安で堪らなくなってしまったのだ。
 ああ、どうしてこんな不安になってしまった日に彼はいないんだろう―――と思っていた矢先、携帯の着信音が腰の右ポケットで振動した。慌てて携帯のディスプレイを見れば、見たかった四文字が表示されていた。
「――もしもし」
『ターゲット確認』
「え?」
 声を挙げて、一瞬思わず眩しい光に目を閉じて、次に目を開けた時には景色が一変していた。さっきまで海上にいたはずなのに、今はどこかのホテルの一室だった。目の前には何とも嬉しそうにニンマリと笑う彼がいた。
「しょ、少佐?」
「おはよう、なまえ」
 ちゅっと軽い挨拶のようなキスを頬にされ、イマイチ状況が理解できず瞬きをしていると、横にいた真木さんが盛大にため息をついた。どうやら、私は少佐の元にテレポートさせられてきたらしい。
「なまえ。やっと会えた」
 そう言って力強く抱きしめられ、思わず軽い悲鳴をあげた。匂いを鼻腔いっぱいに吸うように、首筋に顔を埋められる。擽ったくて身を捩ると、真木さんと目が合って慌てて目を伏せた。真木さんは呆れたようにまた溜息を吐いた。
「――どうして連れてきたの?」
「折角だから一日くらい君とデートがしたくなってさ」
「少佐!?話が違います!」
 予想通り真木さんは目尻を釣り上げて怒った。私の知る限りでも今日も明日もまだ仕事はあるはずだ。
「今日のは真木だけでも十分だよ。明日はなまえにも同席してもらってちゃんと行くからさ」
 じゃあね、と私を抱きしめたまま少佐はそのままどこかへテレポートした。真木さんの少佐を呼ぶ声が痛々しかった。後で真木さんに怒られるんだろうな、私も。






back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -