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Doubt21.5話 裏側の王様

 規則正しい機械音が病室に鳴り響いている中、アヤトは眠っているユイの顔をじっと眺めていた。最後に会った日からどれ程の月日が経っただろうか。彼女が入院した直後は毎日ここへ訪れていたものの、いつの日からか足を運ぶことがなくなっていたのだ。ライトが責め立てるのも仕方なかったかもしれないと心の中で思う。
 ユイの顔は随分と綺麗になっており、あの日の事が遠い過去のことのように感じた。そっと頬へ触れてみる。じんわりと、胸の内を熱くさせる何かがあった。
 出会ったころ、なんて面倒な女が転がり込んできたかと毛嫌いしていたのが懐かしい。顔を合わせれば口喧嘩ばかりしていたが、正義感が強く笑ってしまうほどに真っ直ぐな彼女に、いつの間にか惹かれていた。気付けば自分にとって何よりもかけがえのない存在になっていた。チチナシ、なんて何とも皮肉なあだ名で呼べば頬を膨らませ怒るものの、自分でも自覚があるのか決して否定はしないところが可愛らしくて好きだった。きっとユイさえ居れば。地獄だった自分の人生も彼女さえいればと、そう実感していた矢先のことだった。

 ――こんな現実は想像すらつかなかった。

 あの忌まわしい日。倒れている彼女を見つけた瞬間、生まれて初めて血の気が引くという感覚を知った。無我夢中で抱き上げて何度名を呼んでも瞳を開かないユイに、本当に死んでしまったのではないかとパニックになった。一体誰が。そう思った時目に飛び込んできたのは。

「ッ、………」

 アヤトはユイの頬からすっと手を外した。頭に浮かんだ少女のせいかは分からない。後ろめたい何かがあったのは確かだった。
 最初はその名を口にするだけでも嫌気がさしていたというのに。今となっては、共に過ごしていない日の方が少ないのではないだろうか。おかしい。そんなことは自分でも痛いほど自覚している。あんな碌でもない女、とライトが苛立つのも十分なほどに分かっている。けれど止められない。止めるつもりもない。離すなんてもっての他だ。
 犯され惨めに縮こまり子供のように泣き叫ぶあの女の姿を思い出したアヤトは、口角を吊り上げた。あんなのを今まで見たことがない。最高にそそる。もっともっと、自分だけしか見えなくさせてやりたい。この感情は一体なんと呼ぶのだろう。支配、それとも復讐か。

「お前も嬉しいだろ、チチナシ」

 そう。これはユイの為でもあるのだ。こんな風にぼろぼろにされたこいつの代わりに俺があの女に仕返しをしてやってる、ただそれだけのこと。それ以上の感情なんてあるはずがない。

『ふぁあッ、ひぁ、う、アヤ、トさ、ま…ッ』

 あんな女。

「チッ、くそ」

 きっとただの勘違いだ。

「なあチチナシ。早く目ぇ覚ませよ」

 眠っている彼女の唇に、そっと口づけを落とした。



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