永遠 | ナノ
私の好きなもの
「ジュンくん、あのね・・・」
廊下に自分の姉、“のり”の声が響き渡る。
他の人には聞こえないように、こっそりと僕に話しかける。
しかし、ジュンにとっては、それがすごく鬱陶しく感じられる。
「もうすぐで、真紅ちゃん達が来て5カ月でしょ。
その日にお祝いしないかなって思ってるのよ」
何だそんなコトか、とジュンは軽く聞き流す。
「だからね、こっそり皆に<好きなもの>を聞いておいて欲しいのよ」
その、のりの一言は軽く聞き流すコトは出来なかった。
もちろんそれは自分にも関係している事だからだ。
「なんで僕がそんなコトしなきゃいけないんだよ!
お前がお祝いをしたいんだったら自分で真紅達に聞けばいいだろっ!!!」
ジュンは怒鳴った。
のりは、少し困ったような表情でジュンに説明する。
「だって、お姉ちゃんが聞いたらお祝いのコトが、バレちゃうでしょ?
どうせやるなら当日に、ビックリさせたいんだもん」
のりが、じっと自分の弟を見る。
まるで、幼い子供が親に何かをねだるように。
ジュンはもちろん断ろうと思ったが、思いもよらないアクシデントが起きた。
「そこで何をしているの?」
後ろにはドール達が立っていた。
真紅、雛苺、翠星石、と3体も。
「あっ、真紅ちゃん。
話・・・聞いてた?」
のりがそっと真紅の顔を覗きこむ。
真紅はゆっくりと首を振った。
「今此処に来たばっかりよ」
「チビ人間の怒声が聞こえたから見に来てやったんですぅ」
“チビ人間”とはジュンのコトだ。
翠星石だけは何故か、ジュンのコトをそう呼んでいる。
「じゃあ、この話は何も聞いてないのよね」
のりに安堵の表情が浮かびあがる。
「聞いてはいけないコトだったの?」
姉は目を丸くして驚いた。
まさか、再び聞かれるとは思ってはいなかったのであろう。
真紅に不審に思われてはいけないので、急いでジュンが代弁して答えた。
「べっ、別に何でもないよっ!!!
そっ、そろそろお茶の時間だろ?
リビングに行くぞ!」
頭の後ろで手を組み、真紅達を誘導するようにリビングへと向かって行った。
そうして、ジュンは適当にその場を誤魔化す事が出来た。
・・
一方、姉ののりは立派になった(?)弟の姿を見て感心するばかりだった。
最近、のりはものすごく嬉しい。
それは、真紅達がジュンや自分の前に現れてくれたから。
いや、“真紅達関連について”で話が弟と出来るからだ。
だから、のりにとって真紅達は天使のとうな存在であった。
その事を考えると、また頑張ろうという、元気が湧いてくるのであった。
今回のお祝いの事についても、真紅達にはそうとう感謝しているのであろう。
「ジュンくん。真紅ちゃん達の好きなもの聞いてくれた?」
「あー、一応聞いといた。
真紅が紅茶で、雛苺が苺大福。んで、性悪人形が、蒼星石とスコーンだってさ」
それは、思った通りの結果だった。
聞かなくても良かったんじゃないか、とジュンは改めて思った。
時間をさかのぼる事、30分前―
*
*
*
「おい、真紅。お前が今一番欲しいものって何だ?」
いきなり持ち出してきた会話に真紅が驚きをみせた。
「何、突然。でも・・・今一番欲しいものと言ったら、最高級の紅茶と・・・・・お父様かしら」
“お父様”という言葉に、対しては真紅は微笑んでいた。
余程、自分を造った創始者―お父様のコトが好きなのであろう。
しかし、その心は他のドールズ達も同じなのであろう。
ジュンは、ふぅん、と軽く受け流すと踵を返し、その場を後にしたのであった。
*
*
*
「よしっ、これで全部そろったわ!!!
ジュンくん、皆を呼んできてくれる?」
リビングには豪華な食事と装飾が飾られてある。
結局昨日は、のりは買い物に行き一日を終えたから、今日になったのだ。
ジュンは昼ぐらいまで寝たかったのだが、のりが騒がしすぎて朝早くに起きてしまった。
自分も、一応人形達には感謝しているのだから―・・・と自分に言い聞かせながらしぶしぶ起きてきたのだが。
ぞろぞろと階段から人が降りてくる音が聞こえてくる。
のりは、その音が近づいてくるたびに緊張で身を震わせていた。
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