喜楽 | ナノ
好きなモノは好きなんだ!!



「胡鶴、唐辛子は止めなさい」

始まりは、そんな些細な言葉から始まってしまった。












「…………」
「…………」

無言。

誰がそんな言葉を発したかと言うと…

相手はやはり、鶴之進だった…。






「……………」
「もしもーし。おーい?」

鶴之進は胡鶴の前で手をヒラヒラとさせた。

だが、胡鶴は無反応。
固まっている。

いきなりの事で混乱しているのかも知れない…
それとも…

「うーん、やっぱり目の前で唐辛子を燃やすのはダメだったかな?」
「多分それですね」

鶴之進の問いに答えたのは苑兎だった。

鶴之進は胡鶴の唐辛子を全て燃やしたのだ。それも、目の前で…

この親――鶴之進――は息子を溺愛はしているが、愛情表現が周りとは可笑しい。

今日、この唐辛子たちを燃やす作戦に出たのは今日の朝だった。

鶴之進はいきなり『胡鶴から唐辛子を卒業させよう!!』などど言い出したのだ。

胡鶴の唐辛子好きに右に出るものはいない。

そんな胡鶴から唐辛子を卒業させるなんて、天地がひっくり返っても、無い。

苑兎は止めたが、とうとう実行してしまったのだ。








「…ォレの……」

胡鶴は俯くとそんな言葉を発した。

「ん?」

鶴之進は上手く聞き取れなく耳を傾けた。

すると、その瞬間、胡鶴の目がキラリと光ると、

「オレの唐辛子をよくもーーーーーーーー!!!!!!」


あぁ、やっぱり…
苑兎は深くため息を吐いた。

「そんなに怒らなくても良いじゃん」
「うっせェ!!このクソ親父!!!もう許さねえ!!!!!!!」

このまま暴動が起きてしまうのか…と、苑兎がまた溜息を吐くと

「鶴ちゃん、ハイ」

藍が胡鶴の前に袋を渡した。

「唐辛子よ♪」

その言葉で胡鶴の機嫌は一気に治った。

「藍、ありがと!!!マジでありがとな!!」

そして胡鶴は袋一杯に入った唐辛子を食べ始めた。

その姿を鶴之進と苑兎は黙って見ていた。

二人は確信した。

胡鶴から唐辛子を絶対に取り上げてはいけないということを…





完。

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